コミカルなヴォーカル・スタイルで活躍したコースターズは、1955年の終わりにアメリカの西海岸のロスアンゼルスで結成された黒人のR&Bグループだ。
ユダヤ系白人ながらも、黒人のためにR&Bを書いていたソングライター、ジェリー・リーバー(作曲)&マイク・ストーラー(作詞)はプロデューサーでもあったので、自分たちの楽曲を歌ってくれる理想的なメンバーを探していて、前身となるロビンズに出会った。
ロビンズ時代の代表曲は「第9監房の反乱(Riot in Cell Block #9)」だったが、これは後に同じリーバー&ストーラーの手で、エルヴィス・プレスリーのヒット曲「トラブル」へと発展させている。
リーバー&ストーラーはその後、R&Bの専門レコード会社だったアトランティックとの間でプロデューサーとして契約し、本拠地をニューヨークに移したことから、結果的にメンバーチェンジを経てコースターズが誕生する。
バンド名の由来はニューヨークのレーベルと契約したロスアンゼルスのグループで、ふたつのコースト(西海岸と東海岸)活躍するというところにあったという。
彼らは1956年に「ダウン・イン・メキシコ」がヒットし、それに続いて1957年には「ヤングブラッド(Young Blood)」 と「サーチン(Searchin’)」が両A面で大ヒットした。
翌58年にも「ヤケティヤック(Yakety Yak)」、59年には「チャーリー・ブラウン(Charlie Brown)」と「ポイズン・アイビー(Poison Ivy)」と、ヒットを連発することで安定した人気を誇った。
「ヤケティ・ヤック」は当時の白人家庭によく見られたであろう光景、口うるさい母と反抗する息子の会話をコミカルに描いている。
紙くずをきちんと拾いなさい
そうしないとお小遣いはあげない
台所の床を磨きなさい
そうしないとロックンロールは禁止
「ガミガミうるさいなぁ」
言い訳無用です!
部屋を掃除しなさい
ほうきでしっかり掃きなさい
ガラクタを片付けなさい
そうしないと金曜の夜は外出禁止
「ガミガミうるさいなぁ」
言い訳無用です!
コースターズの楽曲は、文化や人種に関する現実を茶化したユーモラスなものが多く、パーフォーマンスもコミカルだったので、普及し始めたテレビを通して子どもたちの間で人気者となった。
そしてリーバー&ストーラーは、同時にドリフターズも成功に導いていたので、黒人音楽を白人の子供たちに普及させることによって、R&Bの専門レーベルだったアトランティックをロックンロールの大手レコード会社に発展させた。
しかしその当時の日本では。黒人のヴォーカル・グループといえば、「オンリー・ユー」や「煙がめにしみる」がヒットしたプラターズ以外には、殆どといっていいほど一般には知られていなかった。
そうした状況に変化が訪れたのは1970年代の半ばになってからのことで、映画『アメリカン・グラフィティ』が世界中大ヒットしたことによる影響だった。
これをきっかけに日本でもちょっとしたオールディーズのブームが起こり、50年代のヒット曲がまとめてラジオなどから紹介されるようになったのである。
そうした流れの中でいち早くコースターズに注目し、「ヤケティ・ヤック」と「チャーリー・ブラウン」をレパートリーに取り上げていたのが、福岡県久留米市を中心に活躍するアマチュアグループのチェッカーズだった。
「ヤケティ・ヤック」を彼らは自分たちなりに九州弁で「焼けとうや?」、つまり「焼けているかい?」という言葉に置き換えて、コミカルな日本語の歌詞でカヴァーしていた。
彼らの場合はおじいさんが魚を焼いたり、大きな目玉焼きを作る話にすることで、「焼けとうや?」に「焦げとうや!」というオチがついて笑いを取る。これはリーバー&ストーラーの楽曲が持つ本質や、その意味を理解して受け継いだものだった。
チェッカーズはヤマハのコンテストで審査員特別賞に選ばれてプロデビューを果たした後、オールディーズの空気に満ちた「涙のリクエスト」の大ヒットで、たちまち人気が沸騰してアイドルとなっていった。
それから4半世紀が過ぎてから、バンドのリーダーだった武内享が自身のツイッターで、こんな投稿をして話題になったことがある。
そう「Yakety Yak」って曲を替え歌にして全国大会で優勝というなんとも言えない思い出深い曲(笑) RT @tanakakunikazu: やけてますか?って意味ですよね?聴きてえー!RT @toru_master2: アマチュアの頃のチェッカーズの「やけとうや」は選曲済み。
— 武内享 (@toru_master2) 2011年3月24日
そもそもチェッカーズはバンド名をつける際に、The Cadillacs、The Clovers、The Crickets、The Crows、The Drifters、The Flamingos、The Isley Brothers、The Oriolesなど、数多くのヴォーカルグループのなかでもコミックな路線で特徴を出したコースターズにあやかって、「C」で始まって「S」で終わる名前を考えた末に「チェッカーズ」に決めたと言われている。
武内が前出のツイートから1年後、「チャーリー・ブラウン」をカヴァーしたについてもこのように語っていた。
チェッカーズがお手本にしたThe Coasters。この動画見つけた時、ステージングのベクトル間違ってなかったんだと、感動したもんだ。http://t.co/mqW53hyi
— 武内享 (@toru_master2) 2012年7月30日
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