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マカロニ・ウェスタンの『荒野の用心棒』『続・夕陽のガンマン』を映画史に残る作品にしたエンニオ・モリコーネの音楽

2024.07.05

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エンニオ・モリコーネといえば50年以上にわたって映画音楽の世界で活躍してきた巨匠だが、その出世作となったのはマカロニ・ウエスタン映画の『荒野の用心棒』(1964年)だった。

すでに「世界のKUROSAWA」と評価されていた黒澤明の時代劇『用心棒』(1961年)を翻案したこの作品は、まずヨーロッパで大ヒットとなり、2年以上遅れて公開された西部劇の本場であるアメリカでも受け容れられた。

それによってイタリア製の西部劇マカロニ・ウエスタンの存在感と、クリント・イーストウッドというスターの魅力を全世界に印象づける役割を果たしたのだ。

『荒野の用心棒』の音楽をモリコーネが手がけるきっかけは、監督のセルジョ・レオーネからかかってきた電話だった。

それまでにモリコーネは『拳銃は問答無用』『赤い砂の決闘』という、2本のマカロニ・ウエスタンで映画音楽を担当していたが、それを気に入って声をかけてきたのだ。さっそく会ってみるとローマ郊外の映画館に連れて行かれて、日本映画の『用心棒』を見せられた。

モリコーネはクラシックをベースにした佐藤勝の音楽に、あまり感じるところがなかったという。その反応に対してレオーネは、このようにオーダーしてきた。

「セルジョはわたしの反応を見て、これにアイロニーをつけ加えたいのだと言った。それだけではなく、辛辣でちょっとピカレスクなトーンも要ると」


レオーネはその時点で撮影はおろか、編集もほとんど終わっていたという。そこでフィルムを見たモリコーネは、口笛や小笛、鞭(むち)、鉄床(かなとこ)など、それまでの映画音楽ではあまり使われなかった音色を入れた音楽を使いたいと、すぐに思考をめぐらせていた。



しかし、レオーネからはクライマックスの決闘シーンで、アメリカの西部劇映画『リオ・ブラボー』(1959年)の「皆殺しの歌」を使うつもりだと言われて、態度を硬化させることになった。

「最大の見せ場を取りあげられるのは不当だと思った。わたしは仕事を断り、セルジョに言ったんです。そのシーンの音楽もやらせてくれなければ引き受けない、と。彼のほうは、妥協策として、あれに似たような曲をつくってほしいと言った。それはあまり嬉しいことではなかったし、受け身の姿勢も嫌だった。自分にとって愛着のあるものをもとにしてやろうと思った。それで、ユージン・オニールの戯曲にもとづく『海洋劇』のテレビ放送用に作曲した古いテーマを引っ張り出しました」


モリコーネはそのテーマソングのメロディーを下敷きにして、メキシコの軍隊風トランペットによって、『皆殺しの歌』に似たオーケストレーションに仕上げた。確かに聴き比べても、ふたつはそっくりだった。


さて、モリコーネは『荒野の用心棒』で世界的に有名になって、その後もレオーネ監督とのコンビで『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』でヒットを飛ばした後に、映画音楽の世界で多くの実績を残して巨匠となって活躍していく。

1987年には『アンタッチャブル』でグラミー賞を受賞し、1989年には『ニュー・シネマ・パラダイス』で世界的な知名度を得た。

そして面白いことに彼の楽曲はしばしば、ロック・コンサートでも取り上げられている。ブルース・スプリングスティーンは『ウエスタン』(1968年)のテーマソングを、バンドが登場するオープニングのBGMとして映像とともに使った。

メタリカは『続・夕陽のガンマン』(1966年)のクライマックスで流れる「黄金のエクスタシー」を、やはりオープニングで流している。そして2007年にリリースされたトリビュート・アルバム『We All Love Ennio Morricone』では、実際にカヴァーも行った。

なぜジャンルや世代を越えてロック・ミュージシャンに使われるのかについて、モリコーネ自身はこう語っている。

「おそらく、わたしが常に和声のシンプルさを求めるせいでしょうか。シンプルではあるけれど、決して平凡にはならない。つまり、三つの音の和音なんです。作曲の歴史において、バッハやモーツァルトなどの偉大な音楽家も使った。シンガーソングライターの多くはこのようなシンプルさを好みます。シンプルな和声はギターでも弾きやすいですから。それぞれのミュージシャンのもつテクニックの可能性にうまく合うのでしょう」



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さて、ここからは余談になるのだが、レオーネ監督とモリコーネ音楽の傑作『続・夕陽のガンマン』のクライマックスは、スペインのブルゴス市郊外にあるミランディージャ渓谷で撮影された。撮影から半世紀ほどの年月が過ぎて、すでに土の下に埋まってしまったロケ地を復活させようとするプロジェクトが、映画ファンの有志によって始まったのは2014年である。

世界中からファンがシャベルを手に集って土を掘り返し、2016年には見事に往年の姿を取り戻したのだ。その模様をとらえたドキュメンタリー映画『サッドヒルを掘り返せ』には、モリコーネをはじめ、主演のクリント・イーストウッド、メタリカのジェイムス・ヘットフィールドなどもインタビュー出演している。

日本でも3月8日の新宿シネマカリテを皮切りに全国各地で順次公開される予定だ。


(注エンニオ・モリコーネ氏の発言は、「エンニオ・モリコーネ、自身を語る」エンニオ・モリコーネ アントニオ・モンダ 中山悦子=訳 河出書房新社)からの引用です。



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