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話を聞いてもらえないという孤独な叫び声

2026.01.25

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2010年代前半。アメリカの共和党大会で思わぬ「事件」がありました。民主党のオバマ政権の2期目を阻止するために、共和党はロムニー候補を選択しましたが、大会最終日の主役ではロムニー候補ではなく、共和党がゲスト・スピーカーとして招待したクリント・イーストウッドでした。

その年(2012年)の2月。スーパーボウルのハーフタイムにクライスラー社のコマーシャルが流されました。不況にあえぐデトロイトを舞台としたこのコマーシャルに登場したのが、クリント・イーストウッドで、彼が語った次の言葉が大きな感動を集めていたからです。

「アメリカは今、ハーフタイム。後半戦はこれからだ」


イーストウッドを招待した共和党幹部は、彼にそんなイメージを求めたのでしょう。しかし、自らが監督する映画作品でも多くのメッセージを投げかけてきた彼は、舞台上で不思議なパフォーマンスを演じてみせたのです。

舞台の上には、椅子が用意されていました。しかし、イーストウッドはその椅子に座ることなく、椅子に対して語りかけたのでした。


「僕は。。。」と、僕は言った。
そこには誰もいないのに
誰も聞いてはくれないのに
そこにある椅子ですらも


ニール・ダイアモンドの「I am I said」の有名な一節です。

「あの就任式の時は、私も期待したんだがね。。。」

クリント・イーストウッドは党大会に向かう直前、滞在していたホテルでニール・ダイアモンドの歌を耳にしたことを認めています。彼はその瞬間、ひらめいたのでしょう。国民の声が届かないオバマ大統領を椅子に見立てようと。。。


ところで、ニール・ダイヤモンドがこの歌を発表したのは、1971年でした。歌詞は次のように始まります。


LAの天候はよく、太陽が輝く時ばかりで
雰囲気もレイドバックしている
パームツリーが茂り、賃貸も安い
だが、そう、僕はいつだって
帰ろうと思っているのさ


「スイート・キャロライン」のヒットをはじめとして、スターの座を確保していた彼ですが、精神的には疲れ切っており、ロサンジェルスで精神的なセラピーを受けていました。ニールの歌の主人公は、故郷である東海岸への思いを綴ります。


僕はニューヨークで生まれ育った
だが最近、僕は
東西二つの海岸の狭間で迷子になってしまった
LAは悪くないが、僕の家ではない
ニューヨークは僕の故郷だが
もう僕の家ではない


そして、この後、「僕は。。。」と続くわけです。スターダムに憧れ、その座を手にしたはずのニールは、自分自身をグリム童話の蛙に例えようとします。


王様になろうとした蛙の話を読んだことがあるかい?
(中略)
僕について語るなら
同じような物語なのさ


グリム童話にはさまざまな解釈がありますが、ニール自身は「かえるの王さま」という物語をハッピーエンドだとは考えていなかったことになります。シンガーとしては成功したものの、裸の王様ではありませんが、心通じる相手がいなくなってしまったということなのでしょうか。

そう、ニールにはかつて、語り合える最高の仲間がいたのです。その名はシャイロ。彼の心の中に暮らす友達でした。


シャイロ、小さな頃
僕はいつも君の名前を呼んだっけ
誰も来てくれない時も
シャイロ、君はいつも来てくれて
僕らはふたりで遊んだものさ



ニール自身、この「シャイロ」という歌を大切にしていたのでしょう。シングルにしてほしいと希望したのですが、それを認めないレコード会社(当時はバング・レコードに所属していました)との契約を自ら破棄したという過去があります。

シャイロ(Shilo:英語読みはシャイロですが、元々はシロ、と読みます))は、旧約聖書に登場する言葉で「平和を来たらす者」という意味です。この名前がついたシャイロ教会から日本にやってきたのが、ローマ字で有名なヘボンです。

横浜の寺を住処としたヘボンは、まず、自分の名前を日本人が発音できないことに気づきます。そう、彼の名前はヘボンではなく「ヘップバーン」でした。彼はそこで、日本人が発音しやすいように、自分の名前をヘボンとして、日々、横浜に暮らす人たちと会話を続けました。明治7年、横浜には「シャイロ」から名をとった指路(しろ)教会が建てられています。

同じ言葉を話すのに、会話が意味をなさないこともありますし、違う言葉を話すのに、何とか意味を共有したいと思う人もいます。政治家と言われる人たちには、できれば後者であってほしいものであります。


「僕は。。。」と、僕は叫んだ
「僕は。。。」と、僕は言ったのだ
僕は迷子で、
その理由も尋ねられず
孤独なままなのだ


(このコラムは2015年1月15日に公開されたものに改訂を施したものです)


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