「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the ROOTS

デュアンがスライド・ギターと出会った瞬間

2024.10.28

Pocket
LINEで送る

その時、デュアン・オールマンは風邪でベッドの中にいた。1968年。オールマン・ブラザース・バンド結成の前年のことである。

そこへ見舞にやってきたのは、弟のグレッグだった。グレッグは兄に、発売されたばかりの1枚のアルバムと瓶入りの風邪薬を差し入れた。

アルバムは、タジ・マハールのファースト・アルバムだった。ライ・クーダー、ジェシ・エド・デイヴィスらと結成していたライジング・サンズを解散させたばかりの、タジ・マハールのソロ・アルバムには、そのままライ・クーダー、ジェシ・エド・デイヴィスが参加していた。そしてバンドの演奏曲でもあった「ステイツボロ・ブルース」を、このアルバムでも再録音していた。


「ステイツボロ・ブルース」は、ジョージアのブルースマン、ブラインド・ウィリー・マクテルが1928年に録音した作品である。

ステイツボロとは、ジョージア州ブロック郡に属する州東部の市。そこはオールマン・ブラザース・バンドの活動拠点となるメイコンからほど近いところにある。

デュアンは、この曲に魅入られた。この曲と、ジェシ・エド・デイヴィスがプレイするスライド・ギターに魅せられたのである。デュアンとスライド・ギターの出会いが、バンド結成のわずか1年前だったというのは驚くべき話だ。

そして、次にグレッグが兄の部屋のドアを開けると。。。

グレッグが差し入れた風邪薬の瓶は、ラベルが剥がされ、兄の薬指にはまっていた。デュアンは、ベッドの上で、「ステイツボロ・ブルース」をコピーし、スライド・ギターをマスターしてしまったのである。以来、デュアンはコリシディン(風邪薬)の瓶を使い続けることになる。

オールマン・ブラザース・バンドを結成してからも、バンドは何度も何度も、「ステイツボロ・ブルース」を演奏することになる。なかなかデュアンがその出来に満足できなかったからである。

それがバンドの出来なのか、デュアンのスライド・ギターの完成度なのか、デュアンもバンドもわからなくなるほど、彼らはこの曲を演奏し、バンドのサウンド・イメージを作り上げていったのである。

『アット・フィルモア・イースト』でも、オープニングはこの曲「ステイツボロ・ブルース」だった。そしてデュアンの葬儀でも、この曲は演奏された。スライド・ギターはデュアンの代わりに、ディッキー・ベッツがつとめた。

自らが奏でるスライド・ギターの音色を聴きながら、ディッキー・ベッツは、デュアンがもうこの世にいないことを痛感したという。


(このコラムは2017年6月1日に公開されたものです)


オールマン・ブラザーズ・バンド『アット・フィルモア・イースト』


デュアン・オールマン「アンソロジー」


「アンソロジー 2」


●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the ROOTS]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ