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『ロッキー3』の主題歌を手がけることになったサバイバーの前に現れた難敵

2018.08.09

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 1974年8月9日。「黒い炎」などのヒット曲で知られるブラス・ロック・バンド、チェイスのメンバーを乗せた飛行機が墜落。中心メンバーのビル・チェイスをはじめ、機上していたメンバーが死亡した。
 だが運よく、バスで移動中のメンバーがいた。彼らは<サバイバー>(生存者)という新しいバンドを結成することになる

 バスでの移動という偶然で一命を取りとめたジム・ピートリックの部屋の留守番電話が赤く点灯していた。1980年初頭、留守番電話はまだ珍しく、つまらないメッセージを残していく友人も少なくなかった。ピートリックは留守電の再生ボタンを押した。

「ヘイ、ヨー、ジム、お前にステキなメッセージだぜ。シルベスター・スタローンだ」


 ふざけた冗談か、とピートリックは考えた。だが、その声は、いかにも、スタローンの声だった。
 トニーに聞いてみるか、とピートリックは思った。トニー・スコッティはサバイバーが所属していたスコティ・ブラザーズ・レコーズのオーナーであり、俳優であり、プロデューサーだった。
「本当さ」と、スコッティは言った。彼がスタローンに、サバイバーのセカンド・アルバム『予戒』を聞かせていたのだ。

「スタローンが、君に新しい3作目となるロッキーの主題歌を書いてくれという話だ」

 『ロッキー』といえば、ビル・コンティの音楽を思い浮かべる。だが、スタローンは、新しい若いファンを獲得するためには、もっとエネルギッシュな音が欲しいと考えているということだった。

 それから少しして『ロッキー3』のラフ・カット版を見る機会がやってきた。そこでまた、ピートリックは驚くこととなる。
 彼が書く予定となっている主題歌の場面では、クイーンの「アナザー・ワン・バイツ・ザ・ダスト」(「地獄への道づれ」)がはめられていたのである。

 ピートリックはすぐに、スタローンに電話をかけた。
「このまま、クイーンの曲を使えばいいじゃないですか?」

 スタローンは答えた。
「いや、権利関係で使えないのさ」

 ピートリックの頭の中で、スタローンの声が聞こえた。
「こいつは、倒すにゃ、ちょっとした難敵だぜ」

 そして、映像を見ながらの作曲が始まった。
 主題歌「アイ・オブ・ザ・タイガー」は、3日後に生まれ、世界的な大ヒットを記録する。
 生き残った男たちの復活の物語は、ロッキーのテーマにぴったりだったのである。




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