今のように高層マンションが立ち並ぶことのなかった1970年代。屋根に上る、ということはそれほど珍しい行為ではなかった。二階建ての家なら、二階の部屋の窓から、屋根に出ることはさほど難しいことではなかったからだ。
1973年に発表された浅田美代子の「赤い風船」も、テレビドラマ「時間ですよ」の劇中、彼女が屋根の上で歌っていた記憶がある。
1973年、僕は中学2年生で、エルトン・ジョンはその年、『ピアニストを撃つな!』と『黄昏のレンガ路』という2作のアルバム(レコード盤としては3枚だ!)を発表するなど、大活躍をし始めていた。
♪
屋根の上に座り
苔を蹴った
いくつかの言葉が
気に入らなかったから
♪
僕がエルトン・ジョンを好きになるきっかけになった「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」には、そんな歌詞がある。
愛する人に曲を贈る主人公の歌なのだが、この歌詞に続く言葉が何故か、僕には新鮮に響いたことを覚えている。
♪
でも太陽は
僕がこの曲を書く間
ずっと優しかったのです
♪
そう、この曲の主人公は、暖かい太陽の日差しに見守られながら、屋根の上で言葉を探していたのである。
日本では、浅田美代子の影響ではないだろうが、なんとなく、屋根に上るのは夜で、太陽ではなく星や月を見上げるのが普通だと、僕は勝手に思い込んでいた。
ところで、この歌の主人公は、誰にこの歌を贈ろうと思ったのだろう。そんなことを考えたのは、それから1年ほど経った時のことである。
僕は、その昔通った藤棚幼稚園の坂を下りてすぐ右に折れたところにある小さな本屋さんで、文庫本の書棚を眺めていた。
とりたてて、欲しい本があったわけではない。ただ、何となく、それほど多くはない小遣いの範囲内で買える、面白そうなものはないかと思っていたのだ。
僕はそこで、一冊の文庫本と出会うことになる。
♪
でも、ごめんなさい
僕は忘れてしまったのです
あなたの瞳が
グリーンだったのか
ブルーだったのか
でも、確かなことは
その瞳がこれまで見た中で
何より素適だったことです
♪
「ユア・ソング」の歌詞の中に登場する文字列とほぼ、同じ文章が、その文庫の中にあったのである。
不思議なことに、その文庫本はどこかに消えてしまっていて、本の題名も忘れてしまった。でも、その文章は、若き詩人の往復書簡集の中に収められていたのである。
母方の祖父などの影響で、小さい頃から文学や詩に触れていたといわれるバーニー・トウピンが、僕と同じ書簡集を読んでいたのだとすれば、と考えると、少し嬉しかったのを覚えている。
そしてこの曲は、出会ったばかりで、まだエルトンのことを詳しく知ることのなかったバーニーからのラブレターなのではないか、と考えたりもした。
それにしても、あの本はいったい誰の本だったのだろう。何故、忘れてしまったのだろう。でも、その瞳が素適なように、その文章は確かにそこにあったのである。
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僕の歌は君の歌
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