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エルトン・ジョンの「人生の壁」で使われているリムーブという言葉がさすもの

2019.03.20

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聖なるモーゼよ…


 そう歌い出される「人生の壁」は、エルトン・ジョンが日本で最初に発表したシングルだ。「ボーダーソング」という原題のこの歌はその後、アレサ・フランクリン、エリック・クラプトンにカバーされるなど、エルトンが初期に書いたゴスペル・ソングとして認知されている。



 そして、興味深い事実がひとつ。エルトンの歌は基本的にバーニー・トウピンが最初、詩を書き、その詩にエルトンが曲をつける、という形で作られていくのだが、この曲に関しては、エルトンが最後の部分の詩を書き足しているのである。

聖なるモーゼよ
どうか平和に暮らさせてください
すべての憎しみが止むすべを
見つけ出せますように
そこにいる一人の男
彼の肌の色を
私は気になどしません
彼は我が兄弟なのです
どうか平和に暮らさせてください


 エルトンは何故、この部分を書き足したのだろうか。いや、何故、この詩を書き足すことで、この歌を平和への祈りのメッセージにしたのだろうか。
 おそらく、そうしないと、リスナーに届かない、とエルトンは思ったのかも知れない。
 それくらい、バーニーが書いた世界は、すぐには理解しがたい世界だったのである。

聖なるモーゼよ…


 その後に続く歌詞はこうだ。

I have been removed


 私は、リムーブして(されて)いた、というのである。
 リムーブした(された)主人公は、幽霊に会う。
 そしてこの幽霊が、自分とはまったく違った人種でありながら、確かに、彼の親族だというのである。

 僕はずっと、このリムーブの意味がわからないでいた。
 その後、アルバム『マッドマン』に収録された「インディアン・サンセット」で、バーニーは、白人の侵攻の前に命を落としていく若きインディアン戦士を主人公に叙事詩のような作品を書いている。エルトンが「2時間半の映画を6分の歌にまとめた」と話している曲である。


そして赤き太陽はついに
黄金の丘に沈む
銃弾でその体に穴のあいた若き戦士に
平和が訪れる


 そのエンディングの情景描写は、絵画のように鮮烈だ。
 僕はこの曲を聴いて、「人生の壁」について、もう一度、考えるようになったわけだ。この歌がそうであるように、「人生の壁」も薄っぺらい平和への祈りの歌などではないはずなのだ。
 だが、すぐに答えは見つからなかった。

 シルバーバーチの存在を知ることになったのは、それからずいぶん後のことだ。
 シルバーバーチというのは、モーリス・バーバネルという英国人男性に降りた霊だ。
 1920年代。日本でも様々な霊が降り、新興宗教が次々と起こった時代だが、イギリスでも降霊会が盛んだったようで、シルバーバーチは、そんな時代に降りてきたアメリカン・インディアンの霊なのである。

 あえて、白人たちが見下すような存在として現れ、真実を語り、人間の驕りを諭していくというシルバーバーチの霊訓には、シャーロック・ホームズ・シリーズで有名なコナン・ドイルも傾倒していたという記録が残っている。
 バーニー・トウピンは、シルバーバーチを読んでいたのではないか。僕はそう思ったのである。
 だとすると、冒頭の歌詞はこうなる。

聖なるモーゼよ
私は幽体離脱していました


 リムーヴはそう訳すことができる。
 そしてこの歌の主題は、平和を祈ることではなく、自らの罪穢れを払うことだと思うのだ。

私は頭からつま先まで
毒されていたのです



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