ここ最近になって世界でも日本でも、さまざまなシンガーによって歌われているのが、「ハード・タイムス(Hard Times Comes Again No More)」である。
18世紀にスティーブン・フォスターが書いた歌を、ボブ・ディランがアルバムに収録したのは1992年のことだ。
永遠に 私たちの耳に鳴り響く歌がある
ああ、つらい時代なんてもう二度と来ないで
アメリカを代表する歌手、カントリー界の神様的存在だったジョニー・キャッシュも、自作以外にも優れた歌を発掘して残す『アメリカン・レコーディングス』と名付けられたプロジェクトで取り上げている。
ブルース・スプリングスティーンは2009年のツアーから主要なレパートリーとして取り入れた。
現実の社会を取り巻く厳しい経済状況について、自分の思いを語ってから「ハード・タイムス」を演奏するのが恒例となった。
ロンドンのハイドパークで行われた2013年の「ハード・ロック・コーリング」フェスティヴァルでも、トリを飾った約3時間にも渡るパフォーマンスで語りと演奏を聴くことが出来る。
2011年にはシンガー・ソングライターのジェームス・テイラーが、チェロ奏者のヨーヨー・マのアルバムに迎えられて歌っている。
アイルランドの音楽を世界中に広めているザ・チーフタンズは2012年に結成50周年を迎えるにあたり、記念碑的なアルバム『Voice Of Ages』でスコットランドのシンガーソングライター、パオロ・ヌティーニをヴォーカルに迎えて共演している。
日本では1989年にシンガー・ソングライターの矢野顕子が、約1年間の育児休業を経て復帰作したアルバム『WELCOME BACK』で取り上げた。
沖縄の歌姫と呼ばれる我如古(がねこ)より子は、2002年から日本語の歌詞をつけて歌うようになった。
戦前戦後を通してつらい日々のままに置かれ続けている沖縄の人々の哀しみ、それでも捨てない未来への希望が歌われる。
こぼれる涙 星となり
いつかこの闇を照らせよ
生きてゆきましょう 微笑み消さず
同じく沖縄出身の石嶺聡子は2014年に英語でカヴァーした。
日航ジャンボ機の墜落事故で亡くなって30年、坂本九さんの長女である大島花子も、「この傷を抱いて生きてゆく この傷と歩いてゆこう…」と自らの日本語詞で歌い継いでいる。
こうした一連の動きは弱者にとって生きづらい時代がやって来ていることを、いち早く察した音楽家たちが共鳴することで起こっている現象なのかもしれない。
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