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世界のミフネと呼ばれた男~三船敏郎という映画スターの誕生を彩った歌「ジャングル・ブギー」

2017.10.26

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戦時中に軍の報道佐官待遇として中国に渡った作曲家の服部良一は、終戦を上海で迎えてしばらく留め置かれたが、12月になって生きて帰国することができた。
そして戦後まもない焼け跡の東京で、”何か明るいものを、心からうきうきするものを、平和への叫び、世界へ響く歌、派手な踊り、楽しい歌‥‥”という思いから、笠置シヅ子が歌う「東京ブギウギ」や「買い物ブギ」といったヒット曲を生み出していく。

そうした服部良一作品のなかでも、とりわけエネルギッシュでアナーキーな勢いをもつのが「ジャングル・ブギー」だ。
ジャングルをイメージしたようなサウンドとメロディに乗せて、笠置シヅ子のパンチのあるヴォーカルが「ウワーオウ ワオワオ―」と始まる。


そして映画の公開から40年の歳月を経て時代の変化に合ったアレンジで、「ジャングル・ブギー」がもつ破天荒なエネルギーを復活させたのが、東京スカパラダイスオーケストラ(スカパラ)だった。

戦後の開放感と自由を象徴する「東京ブギウギ」よりもパワフルでワイルド、しかも混沌とした猥雑さを持つ歌と音楽の魅力に気がついて、スカパラは1990年代になって新しい解釈でカヴァーしたのである。

1989年にレコード・デビューしたスカパラは幅が広くて雑食性が高く、確かな音楽性と圧倒的なライヴ・パフォーマンスで人気バンドとなったが、昭和の歌の再発見は新しい鉱脈となっていく。

ところで「ジャングル・ブギー」の作詞をしていたのは、世界的な名声を得る映画監督の黒澤明であった。
そもそもこの歌は映画『酔いどれ天使』のために、黒澤監督の要望で作られた作品だったのだ。

映画『酔いどれ天使』のなかにはタバコの煙や化粧品の匂いが立ち込めるキャバレーで、若いヤクザの三船敏郎が酔いつぶれているシーンが出て来る。

アナーキーで妖しい雰囲気を持つそのセットが、東宝撮影所の第一ステージに組まれていた。
黒澤監督は撮影の合間に、そこのテーブルに座って歌詞を書いたという。



『酔いどれ天使』には暴力、犯罪、セックス、そして言葉にならない怒りといったものが気配としてそこかしこに表れている。敗戦直後の混乱期を生きていくことの苛烈さが、否応なく暴力に結びついていった時代の空気が、画面のすみずみにまで満ちている。

初めて三船敏郎を起用した黒澤監督は「彼は表現がスピーディなんですよ。一を言うと十わかる。珍しいほど監督の意図に反応する。日本の俳優はおおむねスローだね。こいつを生かしていこうと思ったね」と当時を振り返り語ったという。

そこで強烈な人間臭さを発散させていた三船敏郎は、フォトジェニックな体躯と眼光鋭い表情から放たれる存在感によって、たちまち脚光を浴びてスターになった。

やがて黒澤監督は三船敏郎を主演にした映画を数多く発表し、『羅生門』『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『赤ひげ』とヒット作や話題作が続く。
そして二人は”世界のクロサワ”、”世界のミフネ”と呼ばれるまでになっていった。

黒澤監督は演技指導とスタッフへの注文について、”黒澤天皇”と揶揄されるほどの厳しさで有名だったが、三船の演技には演技には絶大の信頼をおいていたという。

(注)東急百貨店本店では『世界のミフネと呼ばれた男 三船敏郎 映画デビュー70周年記念』が開催されています。


TAP the POPメンバーも協力する最強の昭和歌謡コラム『オトナの歌謡曲』はこちらから。

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