「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

世界のミフネと呼ばれた男~三船敏郎という映画スターの誕生を彩った歌「ジャングル・ブギー」

2024.12.23

Pocket
LINEで送る

戦時中に軍の報道佐官待遇として中国に渡った作曲家の服部良一は、終戦を上海で迎えてしばらく留め置かれたが、1945年12月になって生きて帰国することができた。

そして戦後まもない焼け跡の東京で、”何か明るいものを、心からうきうきするものを、平和への叫び、世界へ響く歌、派手な踊り、楽しい歌”という想いから、笠置シヅ子が歌う「東京ブギウギ」や「買い物ブギ」といったヒット曲を生み出していく。

そうした服部良一作品のなかでも、とりわけエネルギッシュでアナーキーな勢いを放つのが「ジャングル・ブギー」だ。ジャングルをイメージしたようなサウンドとメロディに乗せて、笠置シヅ子のパンチのあるヴォーカルが「ウワーオウ ワオワオ―」と始まる。


そして映画の公開から40年の歳月を経て、時代の変化に合ったアレンジで「ジャングル・ブギー」が持つ破天荒なエネルギーを復活させたのが、ASA-CHANG、クリーンヘッド・ギムラ、冷牟田竜之、林昌幸らが在籍していた頃の東京スカパラダイスオーケストラ(スカパラ)だった。

戦後の開放感と自由を象徴する「東京ブギウギ」よりもパワフルでワイルド、しかも混沌とした猥雑さを持つ歌と音楽の魅力に気がついて、スカパラは1990年代になってすぐに新しい解釈でカヴァーしたのである。

1989年にレコード・デビューしたスカパラは幅が広くて雑食性が高く、確かな音楽性と圧倒的なライヴ・パフォーマンスで人気バンドとなったが、昭和の歌の再発見は新しい鉱脈となっていく。

ところで「ジャングル・ブギー」の作詞をしていたのは、世界的な名声を得る映画監督の黒澤明であった。そもそもこの歌は映画『酔いどれ天使』のために、黒澤監督の要望で作られた作品だったのだ。

映画『酔いどれ天使』のなかには、タバコの煙や化粧品の匂いが立ち込めるキャバレーで、若いヤクザの三船敏郎が酔いつぶれているシーンが出て来る。

アナーキーで妖しい雰囲気を持つそのセットが、東宝撮影所の第一ステージに組まれていた。黒澤監督は撮影の合間に、そこのテーブルに座って歌詞を書いたという。


『酔いどれ天使』には、暴力、犯罪、セックス、そして言葉にならない怒りといったものが気配としてそこかしこに表れている。敗戦直後の混乱期を生きていくことの苛烈さが、否応なく暴力に結びついていった時代の空気が、画面のすみずみにまで満ちている。

初めて三船敏郎を起用した黒澤監督は「彼は表現がスピーディなんですよ。一を言うと十わかる。珍しいほど監督の意図に反応する。日本の俳優はおおむねスローだね。こいつを生かしていこうと思ったね」と当時を振り返り語ったという。

そこで強烈な人間臭さを発散させていた三船敏郎は、フォトジェニックな体躯と眼光鋭い表情から放たれる存在感によって、たちまち脚光を浴びてスターになった。

やがて黒澤監督は三船敏郎を主演にした映画を数多く発表し、『羅生門』『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『赤ひげ』とヒット作や話題作が続く。そして二人は”世界のクロサワ”、”世界のミフネ”と呼ばれるまでになっていった。

黒澤監督は演技指導とスタッフへの注文について、”黒澤天皇”と揶揄されるほどの厳しさで有名だったが、三船の演技には絶大の信頼をおいていたという。

*このコラムは2017年10月に公開されました。

(注)東急百貨店本店では『世界のミフネと呼ばれた男 三船敏郎 映画デビュー70周年記念』が開催されています。


酔いどれ天使[東宝DVD名作セレクション]

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

TAP the POP協力・スペシャルイベントのご案内

【オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA】開催



1917年に開館した横浜の歴史的建造物「横浜市開港記念会館」(ジャックの塔)で、昭和の名曲を愛する一流のアーティストが集ってコンサートを開催!

昭和に憧れる若い人からリアルタイムで昭和歌謡に慣れ親しんだ人まで、幅広い世代が一緒に楽しめるコンサートです! “国の重要文化財”という、いつもと違う空間が醸し出す特別なひとときを、感動と共にお過ごしください!!

▼日時/2025年6月7日(土曜) 開場17時/開演18時
▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)

▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)

▼「チケットぴあ」にて4月5日(土曜)午前10時より販売開始 *先着順・なくなり次第終了
SS席 9,500円 (1・2階最前列)
S席 8,000円
A席 6,500円
「チケットぴあ」販売ページはこちらから

▼詳しい情報は公式サイトで
「オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA」公式ページ

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ