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プロコル・ハルムの「ソルティ・ドッグ」と、もとはイギリス生まれだったカクテルの関わり

2018.11.02

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プロコルハルムの代表曲といえば「青い影」だが、「ソルティ・ドッグ」という曲も代表曲としてあげられる1曲だ。
「青い影」はオルガンによる宗教音楽のようなサウンドが印象的で、荘厳な教会を思わせるところから室内楽のルーツを強く感じさせる。
それに比べると「ソルティ・ドッグ」は、イントロが始まる前にSEとしてかもめの啼き声が聞こえてきて、目の前には否が応でも海が広がっていく。

大英帝国の流れをくむイギリスのバンドならではの陰影や哀愁、それに独特の湿った空気などがサウンドやメロディーから伝わってくる。
カナダ出身のザ・バンドの土臭さにもどこか通じているものなのだが、それよりもはるかに海や潮の匂いがするところこそ、プロコル・ハルムの特徴なのだろう。



ゆったりとしたテンポで始まる「ソルティドッグ」は、ピアノと控えめなオーケストレーションをバックに、作曲を担当したゲイリー・ブルッカーがの渋い歌声で歌い出していく。
そこへバンドが演奏に加わってきて、「これがプロコルハルムだ!」といわんばかりのドラムによる力強いフィルとともに、緩急をつけてじわじわと盛り上がっていく。

そして歴史を感じさせる海の男達の物語とともに、ゲイリーが次第にドラマチックになる展開する歌を聴かせつつクライマックスを迎えると、そこで再び控えめなオーケストレーションとピアノに戻り、かもめの啼き声のSEとともに終わって次の曲が始まる。

アルバム『ソルティドッグ』は”航海日誌”のようなトータル・アルバムになっていて、イギリスからアメリカに移民した人たちをテーマにした最後の曲「PILGRIMS PROGRESS(ピルグリムス・プログレス)」で、壮大なひとつの物語の幕を閉じている。

ところで「ソルティ・ドッグ」といえば、日本でもウォッカとグレープフルーツジュースによるカクテルが有名だ。
これは1940年代にイギリスで生まれたカクテルに由来するもので、「ソルティ・ドッグ」とはスラングで海軍の「甲板員」を意味するものだった。
船の甲板の上で汗だらけになって犬のように這いつくばって働く甲板員が、大量の汗で塩分が乾いて浮いてくる様子から生じた表現らしい。

したがってもともとはウォッカではなく、イギリスの酒であるジンをベースにしてライムを絞って、塩と混ぜ合わせた「ソルティ・ドッグ・コリンズ」というカクテルだったという。

それがアメリカの西海岸に渡って本格的に流行したのは、自然発生的な動きなので諸説あるらしいが、1960年代に入ってからのことのようだ。
そのときにベースになる蒸溜酒がクセのないウォッカに変わっただけでなく、すぐに手に入るグレープフルーツ・ジュースを混ぜあわせたことによって飲みやすくなって普及した。

ソルティの部分はグラスの縁に塩をつけたグラスとなって残り、手軽ながらもおしゃれなカクテルになリ、そこから広まったのではないかと考えられる。

クラシックとロックを融合させてプログレッシブなロックを生み出したプロコル・ハルムの音楽が、世界的に広まっていったのも1960年代の後半から70年代にかけてのことだった。
イギリス生まれカクテルの作り方がアメリカという国を通して変わっていって、やがて日本にまで広まっていった過程を考えると、日本では特に松任谷由実に影響を与えたプロコル・ハルムの音楽にも、どこかしら大衆文化としての共通性と底力のようなものが感じられる。

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