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16歳にしてひとつの到達点にまで至った山口百恵のバラード「冬の色」

2024.01.16

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1974年の夏に「ひと夏の経験」が大ヒットしてからの山口百恵は、歌手としてだけではなく芸能活動全般において、あきらかに勢いがついてきた。

9月に新曲の「ちっぽけな感傷」を発表すると、10月4日からはTBSテレビのドラマ「赤い迷路(赤いシリーズ第1作)」の放送が始まった。

そして11月にははじめての主演映画『伊豆の踊子』が完成したのだが、そうした活動のすべてが芸能ニュースではトップの扱いになったのだ。

発売するレコードの連続ヒットが続く中で、山口百恵の歌唱力を全面に打ち出す楽曲として、感情を抑えて唄うタイプの「冬の色」が用意された。

少し大人びた「冬の色」が大ヒットしたことについて、原盤制作ディレクターだった川瀬がこのように解説している。

詞と曲とアレンジと、歌い方のすべてが、同じ方向を目指している。音楽の場合、具体的にどうしてそうなっていくのかわからないが、詞と曲とアレンジと歌い方の一つ一つの要素が、少しずつプラスとして積み重なっていって、すごい作品になっていく場合と、少しずつマイナス方向に行き最後はつまらない作品になってしまう場合がある。百恵の場合は、ほとんどのケースがプラスに向かっていった。それが百恵の持つ魅力であり、才能だったのだろう。別の見方をすると、それが「天才」ということなのかもしれない。
(川瀬泰雄著「プレイバック 制作ディレクター回想記」Gakken)


12月10日に発売された「冬の色」は地味な曲調ながらも順調に売上を伸ばし、ヒットチャートで初めて1位(12月23日付)を獲得するヒットになった。


「冬の色」は年が明けてからも好調で、1月いっぱいまで6週連続で首位をキープしたが、そのタイミングで主演映画『伊豆の踊子』が12月28日から全国公開されている。

そもそも『伊豆の踊子』は11月23日公開の予定で製作された作品で、そのために山口百恵に与えられた撮影の日数はわずかに1週間だった。

全体でも3週間足らずで作られた低予算の作品だったのに、各社の大作が公開される正月作品になった経緯については、ホリプロダクションの堀威夫社長が回想録でこう明かしている。

 東宝の正月映画は小松左京原作の SF大作『エスパイ』が早くから決定していたのだが、併映作品が何かの都合で飛んでしまったので、急遽『伊豆の踊り子』を上映したいというのだ。
映画興行の世界では、正月に封切られるというのはよっぽど実績のある役者のものか、大作でない限り上映できないことで、まさに棚からぼたもちの出来事だ。
その意味では私もさることながら、百恵も非常に強運の星を背負っていたのかもしれない。


公募で採用した相手役の三浦友和はCMに出ていたとはいえ無名に近い新人であり、山口百恵も映画は初主演で動員力は未知数だった。
たが、かえってその清新なイメージが良かったのだろう。



12月28日に全国の東宝系劇場で一斉公開された『エスパイ』との2本立ては好評で、全国各地の劇場から続々と興行の成功が伝えられた。
しかも観客の反応はメインの作品だった『エスパイ』をしのいで、『伊豆の踊り子』の方が断然良いという報告だった。

それが意味していたのは、必ずしも山口百恵を目当てに映画館に足を運んだわけではない人たちが、『伊豆の踊り子』を支持したということだ。

山口百恵の人気はこの映画の成功でさらに広範な層にまで広がって決定的なものとなり、やがて伴侶となる三浦友和とのゴールデン・コンビもここからスタートすることになる。

なお映画への進出については、堀威夫の回想録でこんな言葉が語られていた。

百恵のプロモーションに映画を大きな要素として組み込んでいたのは、デビュー当時はそれだけ歌唱力が弱かったためで、後年あれだけ歌唱力が付くとは当時、予想すらしなかったのだから皮肉なものだ。怪我の巧妙とはいえ、いろんな幸運が重なり、歌の世界でも、映画の世界でも頂上を極めたのは、強い運勢を持っていたに違いない。


こうして過激な”青い性路線”に対する反感やバッシングも完全に収まって、山口百恵はこの頃からアイドル歌手としての枠を超えて、歌手としても女優としても唯一無二の存在感を放っていくのである。


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