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630億円を得たラッパーと年収117億円の歌姫〜今旬のミュージシャンはいくら稼ぐ?

2014.08.27

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毎年夏になると発表される、アメリカの経済誌Forbesの「Celebrity 100」。

──これは世界のエンターテイナーの収入、ネットやソーシャルで話題になった回数、雑誌の表紙やTVや新聞やラジオといったメディアで話題になった回数などに基づいてまとめられるパワーランキング。つまり「世界で最も影響力のあるスターは誰か?」あるいは「人気を維持する中でいくら稼いだか?」のランキングでもある。

この企画が同誌でスタートする1999年以前は、単なる収入ランキングだった。しかし、当時はネットカルチャーの浸透をはじめ、音楽著作権で後にレコード業界と争うことになるナップスター(ダウンロード型ファイル共有サービスの先駆け)の登場など、音楽業界やポップカルチャーも変革を迎えようとしていた頃。CDの売り上げも事実、アメリカではこの年以降は下降線をたどっていく。それに合わせてランキングの形態も話題や人気という影響力を加味したものに更新された。

なお、このランキングにはミュージシャンや歌手のほかに、映画スターや監督/制作者、作家、スポーツ選手、TVやラジオの司会者、TVドラマ俳優、ファッションモデルといった面々が登場するが、今回は音楽と収入面に絞って話を進めつつ、最後にここ15年間の動向を総括してみたい。

まずは気になる最新の2014年版。今回の「Celebrity 100」にランクインしたミュージシャンは24組。収入の多かった順に並べ替えてみよう。*( )内の数字は総合ランキング

1(3) ドクター・ドレー 6億2000万ドル(約632億円)
2(1) ビヨンセ 1億1500万ドル(約117億円)
3(26) イーグルス 1億ドル(約102億円)
4(13) ボン・ジョヴィ 8200万ドル(約84億円)
5(25) ブルース・スプリングスティーン 8100万ドル(約83億円)
6(33) ジャスティン・ビーバー 8000万ドル(約82億円)
7(28) ワン・ダイレクション 7500万ドル(約77億円)
8(29) ポール・マッカートニー 7100万ドル(約72億円)
9(21) カルヴィン・ハリス 6600万ドル(約67億円)
10(51)トビー・キース 6500万ドル(約66億円)
11(18)テイラー・スウィフト 6400万ドル(約65億円)
12(6) Jay-Z 6000万ドル(約61億円)
13(13)ブルーノ・マーズ 6000万ドル(約61億円)
14(31)ショーン・コムズ6000万ドル(約61億円)
15(26)ジャスティン・ティンバーレイク 5700万ドル(約58億円)
16(8) リアーナ 4800万ドル(約49億円)
17(70)ケニー・チェズニー 4400万ドル(約45億円)
18(9) ケイティ・ペリー 4000万ドル(約41億円)
19(33)ジェニファー・ロペス 3700万ドル(約38億円)
20(17)マイリー・サイラス 3600万ドル(約37億円)
21(19)レディー・ガガ 3300万ドル(約34億円)
22(20)カニエ・ウエスト 3000万ドル(約31億円)
23(47)アヴィーチー 2800万ドル(29億円)
24(38)ファレル・ウィリアムス 2200万ドル(約22億円)

こうして見てみると、いくら税引き前の金額とはいえ思わず溜息が出てしまう数字が並んでいる(年々その額が増大している)。中でもヒップホップのカリスマプロデュサーであるドクター・ドレー(49歳)が「Celebrity 100」始まって以来の最高収入を記録した。実はこれは音楽活動ではなく、ヘッドフォンブランドやストリーミングサービスを含む自身の事業「Beats Electronics」をアップル社に売却したことによるもの。買収額は30億ドル(約3060億円)だったと言われる。

また、ビヨンセ(32歳)は02年のブリトニー・スピアーズ、11年のレディー・ガガ、12年のジェニファー・ロペスに続く、歌手として堂々の総合1位を獲得。稼ぐ金額も凄まじいが、その内訳はコンサート収入、スポンサー契約やブランドビジネスによるもの。08年に結婚した夫のJay-Z(44歳)もこのランキングの常連なので、間違いなく「世界で最も稼ぐ有名で影響力のある夫婦」だろう。

00年代から続々と出てきたヒップホップやR&B勢のほか、ケイティ・ペリー(29歳)やテイラー・スウィフト(24歳/写真上)など今をときめくポップスター、マイリー・サイラス(20歳)やジャスティン・ビーバー(20歳)などのアイドル勢、流行りのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の人気DJカルヴィン・ハリス(30歳)やアヴィーチー(24歳)、そしてカントリー界のスターや大御所のロックバンドたちもランクインしている。
こうした面々からポップミュージックの動向が分かるだけでなく、単曲ダウンロードやストリーミングサービスが主流となり、CDやアルバムが売れなくなった現在の音楽業界において、いかにツアー興行やグッズ販売が収入の鍵を握るかも見えてくる。

よほど的外れな失敗をしない限り、人気アーティストの活動や告知はネットやソーシャルで発信/シェアされて一つのムードの中で成功に至る。例えば、レーベル運営やブランド事業拡大、衣料品/玩具/ゲーム/レストランなどのプロデュースにも勤しむラッパーたちは、もはや一流の起業家みたいだ。
彼らの目的は音楽ではなく、最初からビジネスに照準を合わせているようにも思える。人気者になったらメディアやネットをフル活用して、自身のブランド価値を高めておくこと、そして兼業しておくことの重要性を彼らは知っているようだ。その根底にあるのは「今の人気なんていつまでも続かない」という“ポップカルチャーの鉄則”なのかもしれない。日本の集団アイドルビジネスの構造もこれとよく似ている。

それでは過去16年分(1999~2014年)の「Celebrity 100」をもとに、いくつかの方向性から総括およびランキング化してみよう(音楽分野のみ)。

①【「Celebrity 100」への登場回数ランキング】
10回 ジェニファー・ロペス
9回 ショーン・コムズ
8回 ビヨンセ、Jay-Z
7回 マドンナ、セリーヌ・ディオン、ボン・ジョヴィ、デイヴ・マシューズ・バンド
6回 ローリング・ストーンズ、エルトン・ジョン、ブルース・スプリングスティーン、カニエ・ウエスト、トビー・キース
5回 U2、ポール・マッカートニー、ドクター・ドレー、ブリトニー・スピアーズ、レディー・ガガ、テイラー・スウィフト、ケニー・チェズニー

備考/「キング・オブ・ポップ」ことマイケル・ジャクソンは「Celebrity 100」には一度も見当たらなかった。97年の収入ランキングが最後。

②【「Celebrity 100」のTOP10登場回数ランキング】
6回 マドンナ
5回 ローリング・ストーンズ、ビヨンセ
4回 U2、ブリトニー・スピアーズ、レディー・ガガ
3回 エルトン・ジョン、Jay-Z、ジャスティン・ビーバー

備考/マドンナ最強説浮上か。ストーンズやU2などは大規模なツアーを行う度に莫大な収入やメディア露出があってランクインしている。

③【「Celebrity 100」登場時での年間収入が100億円超ランキング】
*各年度末のレートで計算

1、約632億円 ドクター・ドレー(2014年)
2、約150億円 U2(2011年)
2、約150億円 50セント(2008年)
4、約131億円 マドンナ(2013年) 
5、約121億円 U2(2006年)
6、約117億円 ビヨンセ(2014年) 
7、約115億円 ポリス(2008年)
8、約110億円 マドンナ(2009年)
9、約106億円 ローリング・ストーンズ(2007年)
10、約105億円 U2(2010年) 
11、約102億円 イーグルス(2014年) 
12、約100億円 Jay-Z(2007年)
13、約96億円 ボン・ジョヴィ(2011年)
14、約94億円 ドクター・ドレー(2012年)
15、約92億円 AC/DC(2010年)

備考/やっぱりロックはツアーが強い。そして60~70代のビッグネームもツアーで稼ぐ時代。U2の09~11年に行われた「360°ツアー」は700万人以上を動員して7億ドル以上を稼ぎ出してギネス記録に。ストーンズが05~07年に世界を回った「ア・ビガー・バン・ツアー」の5億6000万ドルを塗り替えた。

④【「Celebrity 100」登場時に年間収入が50億円以上あった回数ランキング】
6回 ローリング・ストーンズ、ボン・ジョヴィ
5回 ブルース・スプリングスティーン、マドンナ、ビヨンセ
4回 U2、Jay-Z
3回 エルトン・ジョン、レディー・ガガ

備考/ストーンズ、マドンナ、ビヨンセはアルバムをリリースしてツアーをすること自体がイベント化して、影響力と収入両面に反映されている。

⑤【Jay-Zとビヨンセ~世界で最も稼ぐ有名で影響力のある夫婦】
Jay-Zは07年に初登場して以来、8年連続でランクイン。ビヨンセは04年に初登場。08年からは7年連続でランクイン。ここ5年間の二人の収入総額は、Jay-Zが2億4000万ドル、ビヨンセが3億3000万ドル。

⑥【今旬の女性ポップスターたち】
○レディー・ガガは10年に初登場して以来、5年連続ランクイン。収入総額3億1700万ドル。
○テイラー・スウィフトは10年に初登場して以来、5年連続でランクイン。収入総額は2億6600万ドル。
○ケイティ・ペリーは11年に初登場して以来、4年連続ランクイン。収入総額1億6800万ドル。
○マイリー・サイラスは08年から3年連続。今年で4回目のランクイン。最高収入は10年の4800万ドル。

備考/ブリトニー・スピアーズは01年に初登場。最高収入は10年の6400万ドル。マドンナは7回登場。最高収入は昨年の1億2500万ドル。ジェニファー・ロペスは01年に初登場して以来、今年で10回目のランクイン。最も長期的で安定した人気を誇っている。

⑦【気になるあのアーティストは?】
○エミネム。00年代最大のスターと言われるが、ランクインは03年と10年の2回のみ。
○アデル。10年代に入って誰よりもアルバムを売ったが、12年のみランクイン。収入も3500万ドルと意外に少ない。
○バックストリート・ボーイズとインシンク。2000代初頭に人気があったアイドルグループは00~02年にかけて揃ってランクイン。共に50~60億円の収入があった。
○マライア・キャリー。90年代最大のスターは、02年の1回のみ登場。当時の収入は70億円。
○ガース・ブルックス。90年代の音楽業界で誰よりもアルバムを売ったカントリー界のスーパースター。99年の1回のみ登場。当時の収入は65億円。引退しなければ00年代でも常連になっていたはず。

⑧【気になるあのロックバンド/アーティストは?】
○ブルース・スプリングスティーン。精力的に活動するアメリカで最も有名なロッカー。ランクインする度に70億円以上の収入がある。
○ボン・ジョヴィ。今やアメリカンバンドの顔役としてランキングの常連。ハードロックを演っていた80年代よりも人気が高い。11年には96億円の収入。
○コールドプレイ。ランクインは3回。昨年は6400万ドルの収入。
○デイヴ・マシューズ・バンド。日本ではほとんど無名だがアメリカではスター。00年代に6回もランクイン。09年には65億円の収入があった。
○メタリカ。4回ランクインしているが、05年が最後。当時は40億円の収入。
○キッス、エアロスミス、ヴァン・ヘイレンは00年代前半に1回のみランクイン。共に30億円の収入。
○プリンス。05年に1回のみランクイン。55億円の収入。
○エリック・クラプトン。02年に1回のみランクイン。27億円の収入。

⑨【番外/マイケル・ジャクソンの死後の収入】
2009年6月に亡くなったマイケルだが、その収入額が人気が低迷した90年代や00年代よりも凄い。CDや楽曲の売り上げ、ライセンス料など。故人でも対象なら「Celebrity 100」の上位にランクインするのは間違いない。ちなみに5年分の総額はJay-Zとビヨンセ夫妻のそれよりも上回っている。
09年 9000万ドル
10年 2億7500万ドル
11年 1億7000万ドル
12年 1億4500万ドル 
13年 1億6000万ドル

⑩【アーカイブ/1992年〜1998年の収入ランキング】
98年
1、ローリング・ストーンズ68.5億円
2、マスターP 68億円
3、セリーヌ・ディオン66.5億円
4、ガース・ブルックス66億円
5、ショーン・コムズ64億円
97年
1、ビートルズ82億円
2、ローリング・ストーンズ75億円
3、デヴィッド・ボウイ68億円
4、スティング、スパイス・ガールズ48億円
5、セリーヌ・ディオン41億円
96年
1、マイケル・ジャクソン42億円
2、セリーヌ・ディオン37億円
3、ビートルズ36億円
4、ガース・ブルックス35億円
5、キッス、イーグルス32億円
95年
1、ビートルズ100億円
2、ローリング・ストーンズ71億円
3、マイケル・ジャクソン45億円
4、イーグルス43億円
5、R.E.M.24億円
94年
1、ピンク・フロイド56億円
2、イーグルス、バーブラ・ストライサンド52億円
3、ローリング・ストーンズ50億円
4、ビートルズ30億円
5、グレイトフル・デッド24億円
93年
1、ガンズ&ローゼス27億円
2、ガース・ブルックス、ロッド・スチュワート23億円
3、グレイトフル・デッド21億円
4、エアロスミス、ビリー・レイ・サイラス、U2 20億円
5、ビリー・ジョエル、エリック・クラプトン 19億円
92年
1、プリンス35億円
2、U2 27億円
3、ガンズ&ローゼズ、マイケル・ジャクソン26億円
4、フリオ・イグレシアス25億円
5、ガース・ブルックス、マドンナ24億円

●写真提供/Rock Paper Photo
●Forbesの2014年「Celebrity 100」
http://www.forbes.com/celebrities/

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
https://www.wildflowers.jp/contact/

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