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タウンズ・ヴァン・ザント〜放浪人生を歩み続けた伝説のアウトロー・ミュージシャン

2024.01.01

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タウンズ・ヴァン・ザントと巡業と放浪の人生


耳を傾けていると、本物の音楽とは何かという想いをそっと心に届けてくれるアーティストがごく稀にいる。そういう人は例外なく無名で売り上げも少なかったりする。

だが、一部の優れたミュージシャンの間では、その人は彼らに多大な影響を与え、深いリスペクトを受けて伝説となっている。我々はそうしてその人の生前の作品を知ることになり、魂の音楽に心打たれる。

タウンズ・ヴァン・ザントは、まさにそんな“伝説”の代表格かもしれない。さすらいのシンガー・ソングライターとして、あるいはアウトローのカントリー・ミュージシャンとして、彼の名と音楽は歴史に静かに刻まれることになった。

スターになるのではなく、いい曲を作りたいという気持ちしかなかったその人生は、ブルーズでありハイロンサム(注釈)そのものだった。

地獄の下にブルーズがある


1944年、テキサス州フォートワース生まれ。かなり裕福な家庭で育ったにもかかわらず、思春期の頃にライトニン・ホプキンスのブルースを聴いてギターを始める。

最初の結婚を機に歌で稼ぐことを決意。新婚早々に初めて作った曲は、「Waiting Around to Die」というラブソングとは程遠い死の歌だった。

酒やドラッグの影響だったのか、タウンズには自殺の恐れがあり、家族はショック療法を受けさせる。だがこれと代償に思わぬことが起こってしまう。子供時代の記憶を喪失したのだ。

自分のルーツが消えた彼は、旅という移動行為に取り憑かれる。巡業と放浪の人生の始まりだった。これによってお金や安定という世界観とは縁を切った。

孤絶は存在の状態で、孤独は心の状態だ。破産と貧しさと同じだ


1968年にデビューアルバムをリリース。年に1枚ずつ作品を発表していくものの、どれも数千枚しか売れず、レーベルの閉鎖もあって1973年にはレコード制作も終わった。

しかし、酒場のステージ、モーテル、ファミレス、トレーラーハウスといった場所を渡り歩きながら作られた曲の数々は、第一線で活躍するアウトローなミュージシャンたちにゆっくりと浸透していた。

1980年代前半、森の生活を送っていたタウンズの曲にスポットライトが当たる。81年にエミルー・ハリスとドン・ウィリアムスが歌う「If I Need You」がカントリーチャートの3位、83年にウィリー・ネルソンとマール・ハガードが歌う「Pancho and Lefty」が1位になったのだ。

印税が入り、TV出演や客が入ったステージで彼の存在が少しずつ知れ渡っていく絶好の機会だったが、それでもタウンズは酒とドラッグから抜け出せずにいた。

悲しい曲が多いと言われるけど、そうは思わない。完全な絶望的な状態を歌ったのはいくつかあるけど、他は悲しいというより、ただの現実だ


その後、87年と94年にアルバムを出すも、状況は余り変わらなかった。ただ、オルタナティヴ世代のアーティストたちにもその影響は広がっていた。中でも意外なところではソニック・ユースとのレコーディングだろう。

タウンズはなぜか車椅子でスタジオに現れ、酒ばかり口にしていたので、結局セッションはまともにできずに中断せざるを得なかった。実は腰骨を折っていたのだ。酒で痛みを忘れようとした結果だった。この時の手術の影響で、タウンズは1997年1月1日に心不全で息を引き取る。享年52。

レコードがまったく売れていない頃、レーベルの事務所には手紙がよく届いていたそうだ。そこにはタウンズの曲を聴いて自殺するのをやめた、愛する人を失った時に聴いた、人生を救ってくれたという内容が多かったという。

夢の中で書いたといわれる「If I Need You」


ブルーズとハイロンサムが響く「Pancho and Lefty」

(注釈)ハイロンサムとは?
アイルランド系移民と“ハイロンサム”

DVD『Be Here to Love Me』

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ガイ・クラーク、ウィリー・ネルソン、クリス・クリストファーソン、ジェリー・ジェフ・ウォーカー、エミルー・ハリス、スティーヴ・アールなど、カントリー界のアウトローたちが伝説を語る。


『The Late Great Townes Van Zandt』

『The Late Great Townes Van Zandt』

(1972)


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*このコラムは2014年11月に公開されたものを更新しました。

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