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時代を超えた1000万枚以上ベストセラーアルバムの変遷(アメリカ編)

2022.11.27

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CDやアルバムが売れなくなったと言われて久しい。アメリカでは1999年からCDの売り上げは下降線を辿っているし、日本でも音楽CDとしてのミリオンセラーを望むのは今や困難な状況。しかし一方で2000年代から本格化したインターネット時代は、画期的な音楽配信サービスを産み落とした。iTunesなどのダウンロード、Spotifyなどのストリーミング、YouTubeなどのネット動画は、聴き手にとって好きな曲や興味のある曲だけを気軽に(金銭的にも)楽しめる環境を整えてくれた。

これによって従来のアルバムの持つ物語的な意味合い(楽曲の並べ方)が薄くなってきた。アーティストがレコードやCDのセールスで十分稼げた時期はとっくに終わった。アルバムを売るためのツアーやビデオが全盛だった70年代や80年代とは違って、今は逆にツアーがアーティストにとって収入の要だと言われる。2014年に話題になったU2のアルバム無料配信は、大規模ツアーのための恰好のプロモーションになるに違いない。

──こういった類いの話はそろそろやめよう。取り立てて嘆くようなことでもないのだから。スターが永遠にその人気を維持できないのと同じように、音楽を取り巻く環境も変わっていくのが必然。時代は常に新鮮な空気を必要とする。ただ、それだけのことだ。

そんな“アルバム不況”の中、例外も起こるから面白い。こんな時代に『21』を全米だけで1000万枚以上、世界で3000万枚近くを売ったアデルだ。2011年2月にリリースされたこのアルバムは、ここ10年で最も売れたタイトルになった。

聴いたことのある人なら分かると思う。最先端のポップでもなくヴィジュアルも素朴な彼女が、失恋の歌だけで魅了する作品。耳を傾けながら流れていく時間は、実に強くてどこまでも優しい。“類いの話”に付け加えたいのは「歌の力、音楽の繋がりや物語を放つ作品は、やはり時代を超える」ということだ。

今回はこれを機に、全米だけで1000万枚以上(ダイヤモンド・アワードと呼ばれる)を売ったアルバムを並べながら、時代毎の音楽的動向を振り返っていきたい。ただし、音楽は決して売り上げだけで語られるものではない。ルーツミュージックに代表される“本物”の味わい深い音楽ほど売れない事実もあるので、壮大な音楽探究のきっかけとなることを願って記してみよう。

*数字は1952年に設立された全米レコード協会によるレコード/CD/ダウンロードなどのアルバムセールスの統計を参照。なお、2枚組は1セットではなく2枚分としてカウントされている。

*このコラムは2014年9月19日に公開したものに、最新データ(2024年2月現在)を反映しました。

【1960年代のランキング】
●2400万枚
ビートルズ『THE BEATLES』(1968)*通称ホワイトアルバム/2枚組
●1200万枚
ビートルズ『ABBEY ROAD』(1969)
レッド・ツェッペリン『LED ZEPPELIN II』(1969)
●1100万枚
ビートルズ『SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND』(1967)

備考/60年代で1000万枚以上売ったのはこの4枚のみ。時代をアルバム化した先駆者ビートルズが入るのは当然。

【1970年代のランキング】
●3800万枚
イーグルス『THEIR GREATEST HITS 1971-1975』(1976)
●2600万枚
イーグルス『HOTEL CALIFORNIA』(1976)
●2400万枚
レッド・ツェッペリン『LED ZEPPELIN IV』(1971)
●2300万枚
ピンク・フロイド『THE WALL』(1979)*2枚組
●2100万枚
フリートウッド・マック『RUMOURS』(1977)
●1700万枚
ビートルズ『1967-1970』(1973)*通称青盤/2枚組
エルトン・ジョン『GREATEST HITS』(1974)
ボストン『BOSTON』(1976)
●1600万枚
レッド・ツェッペリン『PHYSICAL GRAFFITI』(1975)*2枚組
ビージーズ『SATURDAY NIGHT FEVER』(1977)*サントラ盤/2枚組
●1500万枚
ピンク・フロイド『DARK SIDE OF THE MOON』(1973)
ビートルズ『1962-1966』(1973)*通称赤盤/2枚組
スティーヴ・ミラー・バンド『GREATEST HITS 1974-1978』(1978)
●1400万枚
キャロル・キング『TAPESTRY』(1971)
サイモン&ガーファンクル『GREATEST HITS』(1972)
ミートローフ『BAT OUT OF HELL』(1977)
●1200万枚
ローリング・ストーンズ『HOT ROCKS』(1971)*2枚組編集盤
CCR『CHRONICLE:20 GREATEST HITS』(1976)
●1100万枚
レッド・ツェッペリン『HOUSES OF THE HOLY』(1973)
ジェームス・テイラー『GREATEST HITS』(1976)
ビリー・ジョエル『THE STRANGER』(1977)
●1000万枚
エルヴィス・プレスリー『ELVIS’ CHRISTMAS ALBUM』(1970)
ドアーズ『THE BEST OF THE DOORS』(1973)
パッツィー・クライン『GREATEST HITS』(1973)*60年代のカントリー歌手
スティービー・ワンダー『SONGS IN THE KEY OF LIFE』(1976)*2枚組
ドゥービー・ブラザーズ『BEST OF THE DOOBIES』(1976)
ヴァン・ヘイレン『VAN HALEN』(1978)

備考/70年代は27枚。ロックの教科書的タイトルが並ぶ。70年代半ば以降のアメリカの音楽産業は好況でレコードが売れまくった。ベスト盤が目立つがこれは後になって積み重なったもの。イーグルスのそれはアメリカで最も売れているアルバムとして有名。ツェッペリン、フロイド、マックのオリジナルアルバムは今も売れ続けているから凄い。

【1980年代のランキング】
●3400万枚
マイケル・ジャクソン『THRILLER』(1982)
●2500万枚
AC/DC『BACK IN BLACK』(1980)
●2300万枚
ビリー・ジョエル『GREATEST HITS VOLUME I & VOLUME II』(1985)*2枚組
●1800万枚
ガンズ&ローゼズ『APPETITE FOR DESTRUCTION』(1987)
ジャーニー『GREATEST HITS』(1988)
●1700万枚
ブルース・スプリングスティーン『BORN IN THE U.S.A.』(1984)
●1500万枚
ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズ『LEGEND』(1984)
●1400万枚
ホイットニー・ヒューストン『WHITNEY HOUSTON』(1985)
『DIRTY DANCING』(1987)*サントラ盤
●1300万枚
プリンス&ザ・レヴォリューション『PURPLE RAIN』(1984)
ブルース・スプリングスティーン『LIVE 1975-’85』(1986)*複数枚組
●1200万枚
エアロスミス『GREATEST HITS』(1980)
ケニー・ロジャース『GREATEST HITS』(1980)*カントリー歌手
フィル・コリンズ『NO JACKET REQUIRED』(1985)
ボン・ジョヴィ『SLIPPERY WHEN WET』(1986)
デフ・レパード『HYSTERIA』(1987)
●1100万枚
イーグルス『GREATEST HITS VOLUME II』(1982)
マイケル・ジャクソン『BAD』(1987)
●1000万枚
REOスピードワゴン『HI INFIDELITY』(1980)
ジャーニー『ESCAPE』(1981)
デフ・レパード『PYROMANIA』(1983)
ZZトップ『ELIMINATOR』(1983)
ライオネル・リッチー『CAN’T SLOW DOWN』(1983)
ヴァン・ヘイレン『1984』(1984)
マドンナ『LIKE A VIRGIN』(1984)
ビースティ・ボーイズ『LICENSED TO ILL』(1986)
U2『THE JOSHUA TREE』(1987)
ジョージ・マイケル『FAITH』(1987)
ホイットニー・ヒューストン『WHITNEY』(1987)
ガース・ブルックス『GARTH BROOKS』(1989)

備考/80年代は30枚。MTVが始まった時代で、マイケルやマドンナなどヴィジュアルやポップさを放つアーティストが人気だったが、ツアーに出ずにプロモーションする手法も生まれた。アナログレコードからCDに生産が変わったのもこの時代。AC/DC、ガンズ、デフ・レパード、ボン・ジョヴィといったハードロック勢の活躍が分かる。

【1990年代のランキング】
●2300万枚
ガース・ブルックス『DOUBLE LIVE』(1998)*2枚組
●2100万枚
フーティ&ザ・ブロウフィッシュ『CRACKED REAR VIEW』(1994)
●2000万枚
シャニア・トゥエイン『COME ON OVER』(1997)
●1800万枚
ガース・ブルックス『NO FENCES』(1990)
ホイットニー・ヒューストン『THE BODYGUARD』(1992)*サントラ盤
●1700万枚
アラニス・モリセット『JAGGED LITTLE PILL』(1995)
●1600万枚
メタリカ『METALLICA』(1991)
●1500万枚
サンタナ『SUPERNATURAL』(1999)
●1400万枚
ガース・ブルックス『ROPIN’ THE WIND』(1991)
バックストリート・ボーイズ『BACKSTREET BOYS』(1997)
ブリトニー・スピアーズ『…BABY ONE MORE TIME』(1999)
●1300万枚
パール・ジャム『TEN』(1991)
ディキシー・チックス『WIDE OPEN SPACES』(1998)
バックストリート・ボーイズ『MILLENNIUM』(1999)
●1200万枚
ケニーG『BREATHLESS』(1992)
トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ『GREATEST HITS』(1993)
『FORREST GUMP』(1994)*2枚組サントラ盤
ボーイズIIメン『II』(1994)
TLC『CRAZYSEXYCOOL』(1994)
シャニア・トゥエイン『THE WOMAN IN ME』(1995)
ジュエル『PIECES OF YOU』(1995)
マッチボックス・トゥエンティー『YOURSELF OR SOMEONE LIKE YOU』(1996)
セリーヌ・ディオン『FALLING INTO YOU』(1996)
●1100万枚
マドンナ『THE IMMACULATE COLLECTION』(1990)
マライア・キャリー『DAYDREAM』(1995)
ノートリアスB.I.G.『LIFE AFTER DEATH』(1997)
『TITANIC』(1997)*サントラ盤
セリーヌ・ディオン『LET’S TALK ABOUT LOVE』(1997)
キッド・ロック『DEVIL WITHOUT A CAUSE』(1998)
クリード『HUMAN CLAY』(1999)
ディキシー・チックス『FLY』(1999)
●1000万枚
MCハマー『PLEASE HAMMER DON’T HURT ‘EM』(1990)
レッド・ツェッペリン『LED ZEPPELIN』(1990)*複数枚組の編集盤
ニルヴァーナ『NEVERMIND』(1991)
エリック・クラプトン『UNPLUGGED』(1992)
ガース・ブルックス『THE CHASE』(1992)
ガース・ブルックス『IN PIECES』(1993)
マライア・キャリー『MUSIC BOX』(1993)
グリーン・デイ『DOOKIE』(1994)
『THE LION KING』(1994)*サントラ盤
ボブ・シーガー&ザ・シルバー・ブレット・バンド『GREATEST HITS』(1994)
ガース・ブルックス『THE HITS』(1994)
ノー・ダウト『TRAGIC KINGDOM』(1995)
スマッシング・パンプキンズ『MELLON COLLIE AND THE INFINITE SADNESS』(1995)*2枚組
2 PAC『ALL EYEZ ON ME』(1996)
ガース・ブルックス『SEVENS』(1997)
イン・シンク『’N SYNC』(1998)
2 PAC『GREATEST HITS』(1998)
ローリン・ヒル『THE MISEDUCATION OF LAURYN HILL』(1998)

備考/90年代は49枚と増加。CDが最も売れた時代。何と言ってもガース・ブルックスはこの時代に誰よりもアルバムを売った。彼やシャニア・トゥエイン、ディキシー・チックスなどのカントリーがメインストリーム化。あるいはグランジで爆発したオルタナティヴロック、ラップ、ティーンポップなど多様な音楽がラインナップされている。そんな中、60年代から活動するサンタナの大復活が印象的だった。

【2000年代のランキング】
●1300万枚
アウトキャスト『SPEAKERBOXXX / THE LOVE BELOW』(2003)*2枚組
●1200万枚
リンキン・パーク『HYBRID THEORY』(2000)
ノラ・ジョーンズ『COME AWAY WITH ME』(2002)
エミネム『THE EMINEM SHOW』(2002)
●1100万枚
エミネム『THE MARSHALL MATHERS LP』(2000)
イン・シンク『NO STRINGS ATTACHED』(2000)
ビートルズ『1』(2000)
シャニア・トゥエイン『UP!』(2002)
●1000万枚
ブリトニー・スピアーズ『OOPS!…I DID IT AGAIN』(2000)
ネリー『COUNTRY GRAMMAR』(2000)
エヴァネッセンス『FALLEN』(2003)
アッシャー『CONFESSIONS』(2004)
ニッケルバック『ALL THE RIGHT REASONS』(2005)
エミネム『CURTAIN CALL:THE HITS』(2005)
ガース・ブルックス『THE ULTIMATE HITS』(2007)*2枚組
テイラー・スウィフト『FEARLESS』(2008)

備考/00年代は16枚。ネット配信時代に入って枚数もセールスも一気に減少した。この時代の最大のスターであるエミネム、そしてジャズ畑でありながら、良質なルーツミュージックを奏でるノラ・ジョーンズがこれほど売れたのは嬉しい。このムードは次のアデルへと繋がっていく。

【2010年代以降】
●1400万枚
アデル『21』(2011)
●1100万枚
アデル『25』(2015)
●1000万枚
ORIGINAL BROADWAY CAST RECORDING『HAMILTON』(2015)*2枚組

備考/10年代以降は長い間アデルの2枚のみだったが、ミュージカルの『ハミルトン』が新たにリストに加わった。『21』はビルボードの年間アルバムチャートでも2年連続1位(11年と12年)という記録的ロングセラーになった。

ここ10年で最も印象的な女性の歌い手に、アデルとノラ・ジョーンズを思い浮かべる人は多いと思う。




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アデル『21』


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ノラ・ジョーンズ『COME AWAY WITH ME』

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【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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