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敬愛するカーティスの曲をピアノで完璧に歌い上げたアレサ・フランクリンの名唱

2018.08.17

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1990年8月13日、アメリカの音楽シーンを揺るがす凄惨な事故が起きた。
ブルックリンの屋外でコンサートを行っていたカーティス・メイフィールドが、強風で倒れてきた照明塔の下敷きになって重傷を負ったのだ。

カーティスはマーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイらと並んで、R&Bシーンを牽引してきた1人だった。
天性の歌声に加えて編曲やプロデュースなど幅広い分野で才能を発揮し、ソウルやR&Bにとどまらず幅広いジャンルのアーティストたちに、多大な影響を与えてきた。

代表曲の1つである「ピープル・ゲット・レディ」は、ジェフ・ベック&ロッド・スチュワートのバージョンをはじめ、ボブ・ディランやボブ・マーリィ、日本ではハナレグミなどによって、数えきれないほど世界中でカバーされている。



カーティスは一命を取り留めたものの半身不随という深刻な後遺症が残って、かつてのようにギターを弾くこともできなくなってしまった。

そんなカーティスを励ますために制作されたトリビュート・アルバム『オール・メン・アー・ブラザーズ~カーティス・メイフィールド・トリビュート』が、1994年の2月にリリースされた。

アルバムにはスティーヴィー・ワンダーやエリック・クラプトン、B.B.キング、エルトン・ジョン、ブルース・スプリングスティーン、レニー・クラヴィッツ、ホイットニー・ヒューストン、ロッド・スチュワートなど、錚々たる顔ぶれが参加しており、その名前を見るだけでも、カーティスがいかに多くのアーティストから尊敬され、愛されているかが伝わってくる。

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なかでもカーティスと親交の深かったのが、アレサ・フランクリンだった。
アレサの姉でシンガーでもあるアーマ・フランクリンが、その存在と影響の大きさについてこう語る。

「わたしたちは彼をジェントル・ジャイアント[心優しき/温厚なる巨匠/偉人、の意]と称し、現代のデューク・エリントンだと思っていました」


カーティスは1976年にアレサがリリースしたアルバム『スパークル』でプロデュースを手がけ、全ての楽曲を書き下ろした。
このアルバムは全米で50万枚以上を売り上げて、アレサは4年ぶりのゴールド・ディスクを獲得することになった。
当時やや低迷気味だったアレサにとっては、人気を取り戻すきっかけを作ってくれたという意味でも、カーティスは特別な存在であった。

カーティスが大怪我をする前にはまた2人で、アルバムを作ろうという話もしていたという。



ところでトリビュート・アルバムの中でアレサが歌ったのは、カーティスのソロ・デビュー・アルバム『カーティス』に収められていた「ザ・メイキングス・オヴ・ユー」だ。

ラジオDJや司会者として人気を博すドニー・トンプソンのテレビ番組『ヴィデオ・ソウル』に出演した際に、アレサはトークの流れからこの歌を生で披露している。


収録の場所はアレサの自宅。
ドニーに「ザ・メイキングス・オヴ・ユー」を歌ってほしいと頼まれると、アレサは最初の1~2行だけ歌ってくれないかしら、と答えている。
そしてピアノを弾きながら交互に歌い、調子を掴んだアレサは改めて歌い始める。

ほんの少しの砂糖にスイカズラの花
それと満面の幸せそうな表情
ああ、バラの花束も忘れちゃいけない
君を驚かせるくらいのね
周りには笑顔の子供たちによる歓喜

これらによって君はできているんだ
本当さ
これらによって君はできているんだ


かつてプロデュースを務めたジェリー・ウェクスラーによれば、ピアノを弾きながら歌うときのアレサには、なにか特別な力が宿るという。

「アレサを鍵盤の前に陣取らせておくと、パフォーマンス全体がさらに強力かつ有機的になる。アレサ自身が自らのリズム・セクションになり、猛烈なパワーが彼女の中から流れ出てくるんだ」


かつてアレサの自叙伝を手がけたデイヴィッド・リッツは、『ヴィデオ・ソウル』でのパフォーマンスについて、評伝『リスペクト』でこう述べている。

このときの、聖なる世俗性に包まれたアレサは、カーティスの曲の完璧な表現者だった。


カーティス・メイフィールドは1996年、多くの励ましに応えて至高のアルバム『ニュー・ワールド・オーダー』を完成させて、奇跡的な復活を果たしている。
それは亡くなる3年前のことだった。




『Tribute to Curtis Mayfield』

(注)本コラムは2016年8月16日に公開されました。
参考文献:『アレサ・フランクリン リスペクト』デイヴィッド・リッツ著/新井祟嗣訳(シンコーミュージック・エンターテイメント)

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