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TOKYO音楽酒場

【2軒目】渋谷・MILLIBAR──音楽好きに長く愛され続ける、都会のオアシス

2016.12.03

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。第二回目に訪れたのは、渋谷の喧噪から少し離れたところに20年前から店を構える、レゲエ/ソウル・バー。ミュージシャンや音楽関係者も多く訪れるこの店は、渋谷のオアシスとして長く愛され続けている。

宇田川町のはずれ。東急本店前の雑居ビルの3階に、1996年にオープンした〈MILLIBAR(ミリバール)〉。開店当時の宇田川町といえば、アナログレコードを取り扱うショップが雨後のたけのこのように増えはじめてきた頃。世界で一番のレコード店街と呼ばれた宇田川町も、相次ぐ閉店ラッシュでその面影はなくなった。が、最近になってHMVがアナログレコードに特化した店をオープンするなど、再び注目を集めつつある──そんな街の変遷を、ミリバールはずっと同じ場所で見つめてきた。

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オーナーの清野さんは、学生時代からの音楽好きが高じて、ディスクユニオンのスタッフとして働いていた。

「世代的にはパンク/ニュー・ウェイヴですね。クラッシュから2トーン・スカと聴いて……大学入ってしばらくした頃から、レゲエが好きになってしまって(笑)。本来はレコード屋でもやりたいなって思ってたんだけど、好きな音楽だけかけてられるレコード屋も少ないだろうと思って、軌道修正してね。飲食店なら、好きな音楽ばっかりかけていられるかなって」

きっかけは、同じく宇田川町にあったレゲエ・バー〈ロシナンテ〉。

「ロシナンテは、最新のレゲエがバンバンかかってて。それでいて落ち着いた客席で、料理も美味しいものが出していて。そんなお店、当時は他にあまりなかったから、好きで通うようになった。そのうち求人募集もしてないのに『働きます!』って、押し掛けでスタッフになってね(笑)」

ロシナンテに3年ほど勤めた後、今度はニューオーリンズの音楽と料理に特化した自由が丘の〈マルディグラ〉にて働きはじめる。今もミリバールの看板メニューとして人気のニューオーリンズの煮込み料理〈ガンボ〉は、マルディグラでの修行時代に覚えたレシピを引き継いだものだ。ガンボをはじめとしたフード・メニューも充実するミリバールには、食事目当てで来店する客も多い。

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そんなミリバールで流れる音楽は、レゲエやスカ、ロックステディ、リズム&ブルースやファンクあたりを中心としつつも、ヨーロッパや中南米の民俗音楽から日本のロック/ポップスまで、実に幅広いジャンルにわたる。

「レゲエ専門店やニューオーリンズ専門店にいたわけだけど、自分の店ではもっといろんなジャンルをかけてみたいなって思って。あるジャンルに絞ることで、そのジャンルが好きな人だけで客層が固まってしまうのもつまらないですからね。ここ数年だと新譜として買うのは、ワールド・ミュージック系になっちゃってるかな……といっても、今、気軽に入手出来るのは渋谷のタワーレコードかエルスールレコードぐらいなんだけど。最近で気に入ってるのは、ファンファーレ・チョカリーアの新譜『悪魔の物語』。カナダ人のギタリストが参加していて、いつもと比べると少しおとなしい感じはするけど、音楽的に広がりもあって……」

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実際、ミリバールのカウンターでのんびりとグラスを傾けている時に、聴いたことがない音楽と出会う機会が多い。気になってアーティスト名を訊けば、それがバルセロナで活動するミクスチャー・バンドだったり、あるいはごく最近にリリースされたインディペンデントな日本のシンガー・ソングライターだったり。しかし、そうして聴ける音楽のいずれにも、ルーツ・ミュージックからの影響が匂い立ち、またフレキシブルなセンスをやユーモアを感じられるのだ──などと話しているうちに、ついつい酒もすすんでしまう。週に数回カウンターに立つ、女性スタッフのナオさんも同じように、この店で新しい音楽との出会いを楽しんでいるようだ。

「清野さんはもちろん、お客さんからも音楽を教えてもらったりすることもあるし。お酒飲んで、音楽も聴けて、あんまり仕事っていう感じがしてないですけどね(笑)」(ナオさん)

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クラブクアトロをはじめとするライブハウスや、渋谷公会堂などのコンサート会場も近いこともあって、ミュージシャンや音楽関係の仕事をしている人たちも多く訪れる。

「古い音楽好きの知り合いが、売れっ子のミュージシャンになっていたり、レコード会社の要職についているようなことも多くなりましたね。仕事が忙しかったり、家族をもつようになって店に訪れる頻度は減っても、相変わらず飲みに来てくれるし」

音楽好きに長く愛される理由は、店で流れる音楽のセンスや、居心地の良さ、またオーナーである清野さんの人柄によるものももちろんあるが、客に美味しいお酒と心地良い時間を味わってもらうための手間と気配りを、常に行き渡らせていることに他ならない。

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「ウチの店は内装とかほとんどいじってなくて、5年ぶりとか10年ぶりに来る人も『何も変わってないね』って言ってくれて、それも嬉しいことなんです。だけどそうは言っても、ちょくちょく新しい音楽もかけていたりするしね。それに料理も酒も、定番メニューはずっとあるけれど、〈今年の夏の新作!〉なんて銘打ったりして、日々ちょっとずつリニューアルしていて。店で育てた手摘みのミントでモヒートを出したり、最近だと紅茶焼酎なんてのも作ってみたり……それなりにこっそりとトレンドは意識してるんですよ。老舗のバンドみたいにね(笑)」

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撮影/相澤心也


MILLIBAR
東京都渋谷区宇田川町33-10 J+Rビル Jside 3F
19:00~27:00
日・祝 定休
http://twitter.com/SeinoMillibar
http://www.ac.cyberhome.ne.jp/~millibar/

*本コラムは2014年8月10日に初出公開した記事に加筆修正したものです

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