TOKYO音楽酒場

【11軒目】渋谷・Bar Music──美味しい珈琲と音楽の新鮮な驚きに出会える酒場

2015.01.10

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回訪れたのは、駅からほど近くにありながらも、渋谷の街の喧噪を忘れさせてくれるお店。美味しい珈琲と美味しいお酒、そして揺るぎない審美眼で選び抜いた音楽を堪能させてくれます。

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渋谷駅西口。大きなバスロータリーを越えると、飲食店が軒を連ねる〈渋谷中央街〉に入る。居酒屋やキャバクラなどの看板が目立つ猥雑な印象のあるエリアの中にあって、ゆったりとおだやかな時間が流れる店。それが〈Bar Music〉だ。

雑居ビルの5階にあるドアを開けると、やわらかな照明がほのかに灯った、落ち着いた雰囲気が広がる。低めのバーカウンターの先には、二人掛けのテーブル席がいくつか並ぶ。仕事帰りに夕飯がてら一杯飲んでクールダウンしたり、珈琲を飲みながら一人で読書を楽しんだり、あるいは恋人同士でグラスを傾けて談笑したりと、思い思いの時間を過ごせる空間が提供される。

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「窓から見える風景も、渋谷にしては静かな絵が広がります。入ってみて感じるギャップが、渋谷なのに渋谷っぽくなくていいよねって言って下さる方も多いですね」

そう語るのは、MUSICAANOSSA(ムジカノッサ)を主宰し、DJ/選曲家/音楽ライターとしても活躍する店主・中村智昭さん。カフェブームを牽引した渋谷のカフェ・アプレミディの店長を、開店から約10年に渡り務めたのち、2010年6月に自らの店であるBar Musicをオープンした。

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「1999年から〈ムジカノッサ〉というのをやっていて。これはポルトガル語で〈僕たちの音楽〉という意味なんですが、様々なスタイルの音楽が出揃ってシーンが成熟している中で、ジャンルの枠にとらわれることなく、丁寧に音楽を伝えて行くためのゆるやかな運動のようなものなんです。これまでクラブでのイヴェントの企画やディスク・ガイド、コンピレイションのリリースという形になってきていますが、それらがより日常の中で伝わるような場所をと思い、この店を開きました。実はその名も〈Music〉というタイトルがついた曲は数多くあるのですが、中でもキャロル・キング とサティマ・ビー・ベンジャミンの同名異曲があって。ともにワルツのリズムでメロディアスであって、〈音楽〉をたおやかに歌っている。この2曲はコインの裏表、自分の中で精神的支柱としてありますね」

中村さんの実家は、広島市で60年以上続く喫茶店を経営している。その店で焙煎した豆を使って淹れる珈琲も、Bar Musicの柱のひとつだ。

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「原爆が落ちた直後の1946年に祖父が開業した自家焙煎喫茶で、現在は父と母が継いでいます。週に一度届くオリジナル・ブレンドは流行りとは無縁の昔ながらの味なんですが、それを変らず提供していくことが使命だと思っています。祖父や父にドリップを叩き込まれたりということはないのですが、豆の持つ旨味を丁寧に引き出すことを常に心がけてます」

カフェ・アプレミディから譲り受けたというコーヒーミルと、15年以上使い続けているというドリップポットで、中村さんが丁寧に淹れてくれるBar Musicの珈琲は、クセが強くなく、酸味と苦みのバランスが上品に取れた美味しさ。その珈琲を使ったカクテルも人気だ。

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「コーヒーミルにしてもサーバーにしても、長く使っている物にはやっぱり愛着があります。思えば、こうして何杯落としてきたんだろう、って。 レコードに関してもそうなんですが、針飛びなんかのよほどのことがない限りは、ずっと同じ盤と一緒に歩んで行きたい。情が湧いてくるというか。たとえば自分と一緒にDJの現場を10年、20年とくぐり抜けてきた盤だったりもするから相棒みたいなものだし、共に見てきた絵みたいなのがあるから……そういうものを投影してしまうんです」

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そんなBar Musicの中でも一番の存在感を放っているのが、アナログ盤がぎっしりと収納されたレコード棚。DJブースも設置され、通常営業の時には6000枚は軽く超えているであろうレコード棚から、中村さん自身が選んでターンテーブルに載せている。

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「Bar Musicでかける音楽に関しては、ただ心地良いだけじゃなくて、やっぱりハッとする瞬間があるような、決定的な曲が入っているものが多いですね。とはいえ、普段は僕がDJブースにつきっきりになれるわけではないので、その盤はかなり限られてきます。レコードの片面の中に、雰囲気を壊してしまうような曲が入っていないことも重要なポイントです。あと、通常営業時に関しては、お客さまがこの場でCDやレコードを手にして買って帰れるもの、つまりは在庫があるものにある程度絞ってプレイしています。いいなと思った音楽を、家に帰ってすぐ聴けるっていうのは素敵なことだと思うし、ここでの記憶を音楽と共に持って帰ってもらえることが、何よりも嬉しいんです」

そこで、中村さんに2枚ほどアルバムを選んでもらった。チョイスされたのは、1969年に発表されたニーナ・シモンの弾き語りアルバム『Nina Simone & Piano』。そしてスコットッランドのシンガー・ソングライター、キング・クレオゾートがジョン・ホプキンスと一緒に作り上げた『Diamond Mine』(2011)。

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「この2枚は、オープン以来の再生回数がTOP5に入ってるんじゃないですかね。片面だけじゃなく、両面素晴らしい。なのでフルで通して聴いてもいいし、片面だけをかけて次の絵に移ってもいいし……」

中村さんが、店で流れる音楽について話す時、聴き手に与える印象を「絵」という言葉で表していたのが興味深い。

「こうした音楽が流れる店で、リクエストできる場所はたくさんあると思うんです。でも、そうして自分の好きな音楽をただ確認するというのではなくて、 見たことのない絵と出会うことの新鮮さや、あるいは自分の知ってる音楽でも、予期せぬタイミングに再会することですごく新鮮に聴こえるとか、他では味わえない瞬間を作れたらいいなと思っていて。それが、長年DJを続けてきた僕がBar Musicという場でたどり着いた答えのひとつです。無言のリクエストに全力で応えたい、というか」

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通常営業の中でもDJがブースに入って選曲を担当する日があったり、また複数のDJが参加するイベントが開催される日もある。

「Bar Musicという店が小さな船だとすれば、僕やスタッフが船そのものを操舵してるんですけど、その日の行く先を決めるキャプテンとしてセレクターをお呼びしています。たとえばCALMさんや松浦俊夫さん、BEAMSの青野賢一さんが、ロングセットで選曲を担当してくれたり。毎回僕も訪れたことのないような様々な場所に連れて行ってくれるし、ときには時間軸さえも歪めてくれる──滞在してくださるお客様にゆるされた時間の中で、今一番新鮮な絵とともに心地よい空間を提供して差し上げることが、勝手に僕の使命だと思っています」

撮影/相澤心也




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Bar Music
東京都渋谷区道玄坂1-6-7-5F
03-6416-3307
18:00〜Midnight 不定休
*日曜日のみ16:00〜24:00、金曜日は朝まで営業。
http://barmusic-coffee.blogspot.jp/
http://www.musicaanossa.com/

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