TOKYO音楽酒場

【23軒目】武蔵小山・武蔵小山商店──酒と音楽で人と人をつなげていく駄菓子バー

2015.07.30

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回は武蔵小山の西口にある、若きマスターの明るい人柄と居心地の良さに酔える駄菓子バーを紹介します。

東急目黒線・武蔵小山駅。地下改札から東口へと出ると、まず目に入るのは〈武蔵小山商店街PALM〉のアーケードだ。都内随一の長さと店舗数を誇る商店街として、近隣住民はもちろん遠方から足を運ぶ人たちも多い。武蔵小山が賑うもう一つの理由は、充実した飲み屋街として。激安立ち呑みの〈晩杯屋〉、働く人の酒場こと〈牛太郎〉、もつ焼きの新星〈豚星〉をはじめ人気店を挙げていったらキリがないが、安くて美味しい酒場が密集する東口エリアは曜日を問わず、日の高い時間帯から多くの酔客であふれている。

しかし、武蔵小山の魅力は東口エリアだけではない。反対側の西口を出てロータリーを横目に歩くと、右手には実にアットホームな雰囲気を醸す〈武蔵小山西口商店街〉がある。常連さんで賑わう居酒屋、元気なお婆さんが営む惣菜屋、こじんまりとしたカフェ・バーなど気になる店が軒を連ねる商店街の中ほどに、今回訪れる〈武蔵小山商店〉がある。

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落ち着いた雰囲気の店内はL字型のカウンターが奥まで伸びる、うなぎの寝床のような造り。ウィスキーやラムなどが並ぶ酒棚の上には、個性的なルックスをしたコーラル社のスピーカーが鎮座する。1杯目のビールが注がれる時に流れていたのは、浜田金吾の「Jazz Singer」という曲だった。ヴィンテージ・スピーカーのジェントルなタッチの音色に、実にフィットする1曲だ。

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「浜田金吾さんのサード・アルバム『Feel The Night』がすごく良いんですよ。アルバムの中で唯一ジャズっぽいのがこの曲で。チェット・ベイカーとか偉大なジャズ・シンガーの名前がいろいろ出てくるんです」

お気に入りのアルバムについて嬉しそうに語るのは、この店のマスター、吉行慶一郎さん。現在30歳の吉行さんはギタリストとして活動しながら、以前は家具の木部補修の仕事などをしていた。そんな彼がこの店をオープンしたのは2009年10月。当初は東口に店を構えていたが、1年前に現在の場所に移転した。

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「知り合いに武蔵小山でいい物件があるからお店をやらない?って言われて。僕は地元が九州なんですけど、上京してからずっとこの界隈に住んでて。駅前の居酒屋でもバイトしてたし、この辺に知り合いも多かったんでね。それに、カミさんも西小山の人だったんで……何より暮らしやすい街ですからね」(吉行さん)

今でこそいい音楽が流れる駄菓子バーとなっているが、開店当初は違うコンセプトだったそう。

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「最初はもつ鍋屋でもやるかって、1年間ぐらいは普通の居酒屋みたいな感じでやってたんです。でも、自分が音楽好きだったんでスピーカーとか置いて流してたら、そっちの方の需要が高くなっちゃって。営業時間も最初は昼15時から深夜1時ぐらいまでだったんですけど、今となっては19時~朝5時ですからね。メニューからどんどん料理を減らしていって、その結果が駄菓子バーというわけなんです(笑)。駄菓子はね、オープン当初からあったんです。色とりどりで楽しいし、何より日持ちもしますからね(笑)。店の内装はほとんど居抜きです。あ、でも棚とか壁板は自分で作って取り付けましたね。全部自宅で使ったフローリング材の余り。フローリング・ショップですよ(笑)」(吉行さん)

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人懐っこい笑顔と飄々とした語り口で、初めてのお客さんにもスッと距離を詰められるのは、カウンターの中に立つ人としての素質がもともとあったのだろう。大半のドリンクメニューがワンコインだというので、2杯目はブラジルのお酒カシャーサを注文。美味しいお酒を飲みつつ、カウンターの駄菓子(お代は自己申告制で貯金箱に入れていく)をつまみながらとりとめのない話をしているうちに、自然とマスターの人柄に惹かれているのに気付く……そんな風に想いを巡らしている最中にも、吉行さんは棚からレコードを選んでは次から次へとターンテーブルに載せていく。松任谷由実『悲しいほどお天気』、佐藤奈々子『スウィート・スウィンギン』、ザ・ナンバーワン・バンド『もも』、輪島vs五木ひろし『横綱輪島の道』……えっ、輪島!?

「このアルバム、面白いんですよ。A面は相撲の実況みたいなナレーションが入ってて、B面は輪島と五木ひろしが交互に演歌を歌っていくっていう。そういえば以前は演歌もよくかけてて。マイクをセットして、演歌を流しながらイントロで前口上するのにハマってた時期もありましたね(笑)。他にもいろいろ変なレコードあるんですよ。全国のお寺の鐘の音を集めたやつとか……」(吉行さん)

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決して枚数が多いとはいえないレコード棚に、なんでこれほどにもバラエティありすぎなセレクトが収まっているのか不思議でならない。マスターは元々どんな音楽が好きだったのか訊いてみると。

「うちの親父がガチガチのフォーク好きで。中学生ぐらいまではずっとその頃の流行りのJ-Popとかを聴いてたんですけど、ギターを弾こうと思って親父に教えてもらって。それがフォークソングだったんです。フォークが好きになって、そこからニュー・ミュージックとかジャズとか、いろんな音楽を聴くようになりましたね。家で普段よく聴くのは、カントリーが多いですね。チェット・アトキンスとか、カントリー寄りのギタリストが好きなんですよね」(吉行さん)

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そんな話をしながら、吉行さんは思い出したように突然カウンターの奥から赤いストラトキャスターを引っ張り出してきた。

「そういえば、こないだ遊びで鈴木茂さんのギターと同じところにキズをつけて、かなりリアルに再現してみたんですよ! ちょっとやりすぎちゃったところもあるんですけど(笑)」(吉行さん)

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木工の腕を活かして、以前から知り合いのギターのリペアなども手がけていたという吉行さん。手にしたギターを見せてもらうと、長らく使用したピッキングの跡や、裏面のバックルでこすられたキズなどが忠実に再現されている。ほとんど映画の小道具さんに引けをとらないクオリティだ。さすがリペア職人! というか、これはリペアとはまったく関係ない技術だろうが。

武蔵小山商店には、ミュージシャンも多く集まる。取材当日はお休みだったが、以前本サイトでも取り上げた〈コロリダス〉のボーカル/ギターしみずけんたさんも店員として働いている。そして、この日お客さんとして訪れていたのは、〈Sundalsoul〉というソロユニットやジャグバンド〈The Worthless〉でも活動するシンガーのSunnyさん。マスター吉行さんについて、語ってくれた。

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「よっちゃん(吉行さん)はなかなか変わり者ですね(笑)。でも、九州男児だから責任感もあるし、男気も感じる。彼自身も他のお店によく飲みに行くし、いろんなお店の人からもすごく好かれてるんです。武蔵小山の飲み屋さんで、よっちゃんを知らない人はいないんじゃないかな?」(Sunnyさん)

吉行さんやコロリダス、Sundalsoulをはじめ、武蔵小山の飲み屋街で知り合った30代のミュージシャンたちにより、〈武蔵小山ラバーズ〉というイベントも企画運営されている。この店からほど近くにある〈ハイマットカフェ〉を中心に定期的に開催され、今年6月にはスクエア荏原ひらつかホールという大きな会場でも公演が実現した。

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「私は8年ぐらい前から武蔵小山に住んでるんですけど、飲み屋街のつながりがすごくて。ミュージシャンやお笑い芸人さん、テレビ関係の仕事をしてる人とか、自然と知り合っていくんです。〈武蔵小山ラバーズ〉も晩杯屋でよっちゃん(吉行さん)や西広ショータっていうシンガー・ソングライター、あとハイマットカフェの当時のオーナーと飲んで話してる時に、じゃあやろうって盛り上がってはじまった企画で」(Sunnyさん)

「みんな近所の飲み屋で働いてたり、飲んで知り合った人たちだよね」(吉行さん)

「私なんて、結婚相手もこの店で知り合ったぐらいだし(笑)。武蔵小山って本当に、人と人をつなげてくれる街だなって思います」(Sunnyさん)

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常に笑い声の絶えない武蔵小山商店。ちなみに店が混みあってくるのは、終電が過ぎた頃からだそう……武蔵小山の夜は長い。


撮影/相澤心也



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武蔵小山商店
品川区小山3-2-5
03-6451-2258
19:00〜5:00 無休
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