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ディパーテッド〜男たちの“甘い夢”が聞こえてくる完璧な映画

2023.08.28

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『ディパーテッド』(The Departed/2006)


「完璧な作品」と呼ばれるものがある。例えば音楽の世界では、ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』やジョニ・ミッチェルの『ブルー』といったアルバムがそう評価されている。一方、映画の世界ではキューブリックやコッポラ監督の代表作などが挙げられるが、ここ10年くらいの話に限定すると、真っ先に思い浮かぶのが『ディパーテッド』(The Departed/2006)だ。

監督はマーティン・スコセッシ、脚本はウィリアム・モナハン、製作陣にブラッド・ピット(当初は俳優としての出演を希望したが、主役を演じるには年齢差が生じたため裏方に回った)。そして出演は、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン、マーク・ウォールバーグ、マーティン・シーン、アレック・ボールドウィンといった錚々たる顔ぶれ。

オールスター・キャスト作品は大抵の場合、俳優たちのエゴ(あるいは強引なミスキャスト)がぶつかって退屈と違和感に覆われてしまうのが定説だが、この作品は違う。どの俳優たちも必要不可欠な存在となって、作品世界が醸し出すムードと色気を見事に捉えた演技を披露してくれる。

『ディパーテッド』はキャラクター設定や演技だけでなく、映像、ストーリー(意味合いも)、編集、ロケ、小道具(特に封筒)の使い方に至るまですべてが「完璧な作品」で、最初から最後の151分間、観る者は映画の持つ圧倒的な力を体験することができる。

多くの映画監督は年を重ねるに従って保守的になっていくものなんだ。が、マーティ(マーティン・スコセッシ)は未だにオープンで何もかもが流動的なんだ。常にマジックが起きる余地をいつも残している。
──ジャック・ニコルソン

偽りの人生がどんな悲劇を招くことになるか、そこに焦点を絞った。
──ウィリアム・モナハン

潜入捜査をする二人という点に強く魅かれて映画を作った。まったく別のような作品に仕上がった。
──マーティン・スコセッシ


香港映画『インファナル・アフェア』がベースとなっているが、スコセッシの言うように作品は実在したアイルランド系やイタリア系マフィアをモデルに“新生”した。アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞を受賞。なお、「ディパーテッド」には「この世を去りし者」「本筋から外れた者」という意味がある。モラルが崩壊してしまった現在の社会。『ディパーテッド』は神のいない世界を描く。

物語はボストンの貧困と犯罪が渦巻く同じ町で生まれ育った二人の男たちのドラマ。

一人は自らの生い立ちに決別するために警察官となったものの、ギャングへの5年に渡る極秘潜入捜査を命じられて、長い年月の中で犯罪者として生き続けざるを得ないビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)。

もう一人はギャングのボスであるコステロ(ジャック・ニコルソン)に幼い頃から歪んだ価値観を植え付けられ、エリート刑事となって警察に潜入し、内通者となって密かに法を犯し続けるコリン・サリバン(マット・デイモン)。

欺き、裏切ることを使命とする二人の男たちの苦悩や緊迫と、スパイ(ネズミ)探しに躍起になる警察とギャングの駆け引きが綴られていく。別人になりすました二人は常に“自分を探されている”立場であり、常に“誰かを探すふり”をしなければならない。些細なミスは死を意味するのだ。

そんな日々の中で、ビリーにとって唯一心安らぐ存在となったのが精神科女医のマドリン。だが、彼女にはコリンという名の恋人がいた。やがて二人がついに対面する時がやって来た。その先には!?……。

音楽のセンスの良さには定評があるスコセッシ監督は、本作でもオープニングにローリング・ストーンズの「Gimme Shelter」や「Let it Loose」、ヴァン・モリソンが歌うピンク・フロイドの「Comfortably Numb」などを使用。

中でも1963年に亡くなったカントリー歌手、パッツィ・クラインの死後のヒット曲「Sweet Dreams」(ドン・ギブソン作)が物語のワンシーンで挿入されているが、映画が終わったエンドロールでもロイ・ブキャナンのギター・インスト版「Sweet Dreams」(1971年)が流される使い方には痺れる。これは夢見た男たちに捧げる鎮魂歌だ。

予告編


ロイ・ブキャナンはブライアン・ジョーンズの後釜としてストーンズに加入要請されたこともある本物のギタリスト。1988年、48歳で他界した。

『ディパーテッド』

『ディパーテッド』

詳細/コメント






*日本公開時チラシ
146307_1
*参考・引用/『ディパーテッド』パンフレット
*このコラムは2016年5月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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