ある天気のいい朝 彼女はニューヨークのラジオ局をつけた
そこから流れてきたのは信じられないようなものだった
彼女はその最高の音楽に合わせて踊り始めた
彼女の人生はロックンロールによって救われたんだ
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが1970年に発表した4枚目のアルバム、『ローデッド』に収録されている「ロックン・ロール」。主人公のジェニーは女性として描かれているが、その内容はルー・リードの自伝的な要素を含んでいる。
ルー・リード、本名ルイス・アラン・リードは1942年の3月2日、ニューヨーク州ブルックリンの病院で生まれた。父親が税理士で家はロングアイランドのフリーポートにあり、リードは裕福な家庭で育っていく。
最初に触れた音楽は、8歳か9歳の頃に親から習わされたクラシック・ピアノだった。しかしそれよりも興味を引いたのは、ラジオから流れてくる音楽だった。
はじめはポップスばかりだったが、50年代半ばになると、生涯に渡ってずっと好きだったというドゥー・ワップ、そしてロックン・ロールが流れてくるようになった。リードは、ラジオから受けた影響についてこのように話している。
「ラジオでロックンロールを聞いていなかったら、この世に意味のある人生が存在するとは思えなかっただろう。(中略)映画は心に響かなかった。テレビもだめ。ラジオが俺を救ってくれたんだ」
リードを特に惹きつけたのは、ロックンロールで何度も繰り返される典型的なスリーコードだった。Ⅳ→Ⅴ→Ⅰというこのシンプルなコード進行を聴くだけで、異常なまでの喜びを覚えたという。
「あの最も基本的なロックンロールのコード進行ほど感心したものはほかにない。(中略)
耳について離れないあのコード進行にメロディを乗せられたら素晴らしいと思わないか? それに、ひとつのコードからもうひとつのコードへの進行と同じくらい、シンプルでエレガントで内容のあるリリックが加わったら素晴らしいと思わないか?」
ラジオからスリーコードのギターの弾き方を学んだルー・リードは、高校に入るとバンドを組んで人前で歌うようになった。そして1964年にジョン・ケイルと出会うと、その翌年にヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成したのだ。
1967年にリリースされたデビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』は、シンプルなロックンロールのコード進行の魅力が十分に詰まった内容となっている。
ルー・リードが残した数々の作品の中で、特にシンプルなロックンロールを味わえるのが1989年のアルバム『ニューヨーク』だ。
70年代以降、リードはロックンロールを継続しつつも、ノイズ音楽やジャズ、ファンク、そして80年代に入るとシンセサイザーやドラムマシンを取り入れるなど、積極的に新しい要素を取り入れていった。
しかしそういった野心的な創作活動は、一般のロックファンには中々受け入れられず、80年代後半にはメインストリームとは無縁のアンダーグラウンドな存在となっていた。
『ニューヨーク』はそんなイメージを払拭し、1973年のアルバム『ベルリン』以来のヒットを記録、今ではルー・リードの代表的なアルバムのひとつに数えられている。
ニューヨークという街が抱える問題にメスを入れた辛辣で“エレガント”な歌詞も印象的だが、ルー・リードが愛するシンプルなスリーコードのロックンロールが堪能できる一枚である。
(注)本コラムは2017年10月31日に公開されました。
参考文献:『ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝』ジェレミー・リード著/大鷹俊一訳(スペースシャワーブックス)
Lou Reed「New York」
Velvet Underground「Loaded」
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