ルー・リードが肝臓疾患による闘病生活の末に、この世を去ったのは2013年10月27日のこと。享年71。
ルーが1964年に結成したヴェルヴェット・アンダーグラウンドは「パンクの祖」とも呼ばれ、ロック史上で最も有名なジャケットの一つである『The Velvet Underground and Nico』が、後世のカルチャーに与えた影響は計り知れない。
『The Velvet Underground and Nico』
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを脱退した後はソロで活動し、文学的な歌詞と独特の歌い回しや美学、反世俗的なスタンスで、孤高の存在として異彩を放ち続けた。
そのルーが亡くなった日について、妻のローリーはこう話している。
「ルーは日曜日の朝に木立を見つめながら、彼のミュージシャンとしての手を宙で動かしながら、太極拳の有名な第21式を行いながら、息を引き取りました」
太極拳は中国に伝わる歴史ある拳法で、体内の気を操ることから健康法としても高く評価されている。
ルーが太極拳と出会ったのは1980年前半の頃で、マーシャルアーツの先生に勧められて始めて以来、毎朝2時間以上は太極拳をした。太極拳は身体を作り、精神を磨く事ができると信じていたからだ。
「精神が統一され、修練とは何かを知り、物事に動じないことを学べるんだ
その太極拳をライヴに導入したのは2003年のことだった。小説家エドガー・アラン・ポーの作品を題材としたアルバム『The Raven』をリリースしたその年のツアーで、ルーは様々な挑戦を試みる。
ドラムを外してチェロを加えるという、ロックではありえなかった変則編成のバンドにした。それまで長らくライヴで取り上げていなかった「Snday Morning(日曜の朝)」や「Venus in Furs(毛皮のヴィーナス)」といった、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代の代表曲をセットリストに入れた。
そしてライヴの後半には、「All Tomorrow’s Parties」や「The Raven」といった曲で、太極拳の師匠であるレン先生をステージに登場させたのだ。
英BBCの人気番組「ジュールズ倶楽部」に出演した時にも、レン先生が「Perfect Day」で太極拳を披露している。
しかし、ルーによれば大半の人はその真意を理解してくれなかったという。
「彼の動きは優雅でしかも力強い。俺にとって太極拳はモダン・ダンスにとても近いものといえる。だけど結局ほとんどの客は何のことだがわかっちゃいなかった。だから、ああいうスタイルのコンサートはもうやらないよ」
このツアーの模様は、LAで行われた「NYC Man Tour」のライヴを完全収録した2枚組のライヴ・アルバム、『Animal Serenade』となって残されている。
ルーの死から四十九日にあたる2013年12月16日には、ニューヨークのアポロシアターでレン先生による太極拳が披露された。
(このコラムは2014年10月28日に公開されたものです)
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