「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the CHANGE

ブライアン・ウィルソンとビーチ・ボーイズの音楽を大きく変えた「ビー・マイ・ベイビー」

2025.01.16

Pocket
LINEで送る

1960年代のアメリカを代表するロック・バンドの一つ、ビーチ・ボーイズ。ブライアン、デニス、カールのウィルソン兄弟を中心にして1961年に結成されたこのバンドは、サーフ・ミュージックを次々と発信して人気を集めていった。

しかし、60年代半ばになるとサーフ・ミュージックは鳴りを潜め、独自のロックを築き上げていく。そして1966年に発表した『ペット・サウンズ』は、ビートルズをはじめとして数多くのアーティストたちに影響をもたらした。

彼らのサウンドが変化しはじめた1964年は、ビートルズがアメリカへ進出して大ブレイクした年でもある。ビートルズをはじめとしたイギリスのバンドが、ビーチ・ボーイズにもたらした影響は当然のことながら大きかった。

ところが、ソングライティングを手掛けていたブライアン・ウィルソンによれば、それよりも大きな影響をもたらした音楽があるのだという。

それがロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」(Be My Baby)だ。
詳しくはこちらのコラム『ダーティ・ダンシング/ミーン・ストリート〜史上最高のラブソング「Be My Baby」』

1963年秋のある日、ブライアンがひとりで車を走らせているときのことだった。カー・ラジオから、突然あの有名なドラムのイントロが流れてきたのである。続いて流れてきた音楽は、それまでに聞いたこともないようなサウンドだった。

「なんなんだこれは!」と叫んで車を路肩に止め、もう一度サビを聞くために曲の最後まで聞き直した。
(『ブライアン・ウィルソン自伝』より)



メロディや歌、アレンジが素晴らしいのはもちろんのことだが、ことさら驚異だったのは、厚みのある不思議なサウンドだった。

「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれるこの独特なサウンドを生み出したのは、のちにビートルズの「レット・イット・ビー」なども手がけることになる名プロデューサー、フィル・スペクター。

「ビー・マイ・ベイビー」を車の中で聞いたのが最初のレッスンだった。二、三日後には、フィル・スペクターが仕事をしていたヴェンチュラのスタジオまで、ぼくは車で向かっていた。


当時のレコーディング環境では8トラックが広まりつつあったが、4トラックもまだまだ主流だった。要は4つの音しか録音することができなかったのである。

ボーカルでマイクが1本使われるので、残り3本で全ての楽器を録音しなければならず、ドラムとベースでマイク1本というのもよくある光景だった。また、当時の機材ではロックのような力強い音をそのまま録音するのも困難で、ベースやバス・ドラムといった楽器はレコードだと迫力が失われてしまうのが当たり前だった。

そうした時代に、厚みのある力強いサウンドをレコードで再現する術を、フィル・スペクターは独自に生み出した。同じ演奏を重ねて録音することで音の厚みを増やし、各楽器の音圧を自在に操ったである。

それを実現するには非常に腕のいいミュージシャンが必要となるが、フィル・スペクターはそうした面においても恵まれていた。フィル・スペクターの音楽を支えた演奏者たちは、のちに「レッキング・クルー」として知られることになる。

詳しくはこちらのコラムをどうぞ

フィル・スペクターのもとで音楽を学んだブライアン・ウィルソンは、すぐさまビーチ・ボーイズにそれを取り入れた。それが1964年の5月に発表された「ドント・ウォーリー・ベイビー」だ。

「アイ・ゲット・アラウンド」のB面は、ぼくがそれまでに書いた曲のなかでもベストのひとつ、「ドント・ウォーリー・ベイビー」だ。フィル・スペクターのことを思いながら書いた曲だよ。



レコーディングの奥深さを知ったブライアン・ウィルソンは、この年の終わりからステージに上がることを拒否し、ソングライティングとレコーディングでビーチ・ボーイズを支えていくこととなる。

カーラジオから聴こえてきた「ビー・マイ・ベイビー」は、ブライアン・ウィルソンの音楽を、そして人生を大きく変えるのだった。

あの曲がぼくの頭脳に及ぼしたことと、あそこで鳴っていた音のせいで、ぼくは生まれ変わったようになった。そして、その先へと大きく飛び出していったんだ。



ウォール・オブ・サウンド:ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・フィル・スペクター 1961-1966


サウンズ・オブ・サマー/ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズ (リマスター)

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

【ご協力のお願い】
TAP the POPが2025年1月13日よりクラウドファンディングを初実施!
あなたも「音楽愛」のメンバーとなり、一緒に未来を育ててくれませんか。
★リターンメニュー紹介★
・2月28日に初開催するライブイベントの先行スペシャルチケット
・Tシャツなど7種の限定ロゴ入りグッズ
・4000本の原稿から厳選するアンソロジー書籍
・特設ページへの名前入れ


Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the CHANGE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ