1966年5月にリリースされたビーチ・ボーイズにとって11枚目のアルバム『ペット・サウンズ』は、ブライアン・ウィルソン渾身の作品だった。
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ビートルズの『ラバー・ソウル』に衝撃を受けたブライアンが、“ロックの最高傑作を作る”と意気込んで完成させたこのアルバムは、まさにブライアン・ウィルソンのソロ作ともいうべき内容で、ビーチ・ボーイズの代名詞ともいうべきサーフ・ミュージックの要素はすっかり鳴りを潜めている。
『ペット・サウンズ』は目標、あるいはライバル視していたジョン・レノンとポール・マッカートニーからも絶賛されたのだが、にもかかわらずレコード会社はこのアルバムに難色を示し、積極的に売り出そうとはしなかった。
全米チャート最高10位。『ペット・サウンズ』はセールス的に見ればビーチ・ボーイズの過去の作品を下回る結果となってしまった。
『ペット・サウンズ』の商業的失敗に落胆したブライアンは、この現状を打破するためには時代を変えるような、新しいスタンダードともいうべき曲が必要だと考える。
『ペット・サウンズ』のすぐ後で取り組みはじめた曲が、それを実現するだろうということが僕にはわかっていた。
メロディや構想は『ペット・サウンズ』をレコーディングしている頃にある程度できていた。曲のテーマは“バイブレーション”。それはブライアンが小さい頃に母がよく口にしていた言葉だった。
母が言うには、犬に吠えられる人間とそうでない人間がいるのは、犬が“バイブレーション”を感じ取っているからだというんだ。それは見えないけど、感じることはできるんだ。
好意、あるいは恐怖や敵意といった目に見えないものを犬は感じていて、悪い“バイブレーション”を放つ人間には吠えるのだという。
その言葉を覚えていたブライアンは、良い“バイブレーション”を放つ曲こそがロックの新しいスタンダードになるはずだと確信していた。
グッド、グッド、グッド
グッド・バイブレーション
『ペット・サウンズ』にも参加した作詞家のトニー・アッシャーが、この曲の歌詞について相談を受けた時、すでに「グッド・バイブレーション」というフレーズは出来ていたという。
本格的なレコーディングは6月頃から始まった。
ブライアンは溜め込んでいた様々なアイデアをこの1曲に注ぎ込む。その結果としてファズ・ベースからクラリネット、チェロ、ハープ、そしてテルミンに至るまで、あらゆる楽器が投入された。
レコーディングには20人のミュージシャンが集められ、ブライアンが完璧に納得するまで何度もセッションが繰り返されるのだった。
長きに渡るセッションと編集の日々が終わり、ようやく曲が完成したのは1966年の9月21日。レコーディングを始めてから3ヶ月もの月日が過ぎていた。
最終的に録音時間は90時間以上にもなり、制作費は5万~7万5千ドルにまで膨れ上がった。ただの1曲にこれほどの大金が注ぎ込まれた例など、当時は他になかった。
想像力、時間、お金、楽器、労力にいたるまで、思いつく限りの全てが注ぎ込まれた「グッド・バイブレーション」は、10月10日にシングルとしてリリースされると発売からわずか4日で23万枚を売上げ、米英ともにシングルチャート1位を獲得する大ヒットとなった。
その後も多くのロック・ファンに愛され続け、ローリング・ストーン紙が2004年に発表したオールタイム・グレイテスト・ソング500では6位にランクインしている。
「グッド・バイブレーション」は60年代のロックを象徴する曲の1つとして、今も“バイブレーション”を放ち続けている。
この成功によってレコード会社もようやくブライアンの音楽を認め、続くアルバム『スマイル』は発売前から大々的に宣伝された。
ところがこの頃からブライアンはパラノイアを患ってしまい、『スマイル』を完成させることなく表舞台から姿を消してしまうのだった。
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