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「TAP the COLOR」連載第206回〜RED〜
1982年9月3〜5日、第1回「US(アース)フェスティバル」が開催された。この史上最大規模のロックフェスを主催したのはスティーブ・ウォズニアック。世界中の誰もが知っているアップル社設立メンバーの一人であり(社員番号は1番)、1977年のスタート当初から故スティーブ・ジョブズの良き相棒として同社の知的良心を担ったエンジニア。技術力の高さと温厚でユーモア溢れる性格から、有名なお伽噺にちなんで「ウォズの魔法使い」と呼ばれる。
巨大なパーティにしたかった。みんなで楽しむために……名もない場所で最高のコンサートをやりたくなって。
ウォズ個人が唯一の資金源だったので目障りなスポンサー広告は一切排除できた。最新のサウンドシステム、巨大なステージ設営やヴィジョン設置(現在のフェスの原型)。会場には湖もあり、キャンプもできる。飲食の売店やトイレの設備をはじめ、警備は3000人にも及び、暑さ対策までもスプリンクラーを何基も用意して拘った。コンピュータの部品を展示するテクノロジーフェアの一角は、ウォズのエンジニアとしてのプライドだったのかもしれない。
結果的にウォズは、3日間で約50万人を動員しながらも1200万ドルを損失。しかし、そんなことは彼にはどうでも良かった。富に対して下品な執着はなかったのだ。
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あのIT起業家が約50億円を自腹で投じて開催した夢のロックフェス
〜第1回US FESTIVAL(1982)の出演アーティスト*出演順
●9月3日
Gang of Four
The Ramones
The English Beat
Oingo Boingo
The B-52’s
Talking Heads
The Police
●9月4日
The Joe Sharino Band
Dave Edmunds
Eddie Money
Santana
The Cars
The Kinks
Pat Benatar
Tom Petty & the Heartbreakers
●9月5日
Grateful Dead
Jerry Jeff Walker
Jimmy Buffett
Jackson Browne
Fleetwood Mac
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ギャング・オブ・フォー『Entertainment!』(1979)
UKポストパンク/ニューウェイヴ史に残る名盤。ファンク・リズムを導入した切れ味鋭いギタープレイ。今聴くと特別な新鮮味はなくなったが、それだけ彼らのアプローチが以降の時代で浸透したということ。レッチリに与えた影響も計り知れない。改めてこの時代のUKを想うと、革新的なアーティストが多かったことに驚く。
ポリス『Ghost in the Machine』(1981)
短い活動期間の中で(再結成は除く)たった5枚のオリジナル・アルバムがあるだけのポリス。クラッシュ、コステロと同時期にパンク・ムーヴメント真っ盛りの英国でデビュー。レゲエを取り入れたナンバーで強い印象を歩み始めたバンドは、4枚目の本作で確固たる音楽性を確立。そして次作『Synchronicity』で世界の頂点へ。あの流れで6枚目が聴きたかったファンは何百万人いただろう。いつまでも色褪せ劣化しない奇跡的なバンドの一つだ。
トーキング・ヘッズ『True Stories』(1986)
1983年の『ストップ・メイキング・センス』ツアー中、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンはタブロイド新聞をめくっては自分が面白いと思った記事を切り抜き始めた。翌年になると、それらの実話をもとに架空の町で繰り広げられる出来事をスケッチ。脚本も仕上げていった。本作はそんな映画『トゥルー・ストーリー』のサントラ盤でもある。
(詳しくはこちら)
トゥルー・ストーリー〜トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが描いた“奇妙なリアル”
ジャクソン・ブラウン『Jackson Browne (a.k.a. Saturate Before Using)』(1972)
アメリカを代表するシンガー・ソングライターの、LAから届けられた記念すべきファースト・アルバム。数少ない「その歌と音を聴くだけで、心に風景が巡る」稀なアーティストでもある。すべての作品に駄作は一切なし。ちなみにジャケットの上にある「Saturate Before Using」とは「使用前に浸すこと」の意。これは車で使うキャンバス地のラジエーター袋をそのままデザインに採用したため。多くの人々がこれがアルバムタイトルだと誤解したのは有名な話。デヴィッド・ゲフィン曰く「ジャクソンに興味を持つレコード会社を見つけられなかったから、自分の金をつぎ込んでアサイラム・レコードを作った」のだ。
【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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