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トゥルー・ストーリー〜トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが描いた“奇妙なリアル”

2016.08.24

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1983年の『ストップ・メイキング・センス』ツアー中、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンはタブロイド新聞をめくっては自分が面白いと思った記事を切り抜き始めた。翌年になると、それらの実話をもとに架空の町で繰り広げられる出来事をスケッチ。脚本も仕上げていった。映画『トゥルー・ストーリー』(True Stories/1986)の準備はゆっくりと進められた。

しかし、ミュージシャンが監督を担当する初めての映画にハリウッドの資金はなかなか集まらない。結局は所属するレコード会社が500万ドル以内という条件で製作費を提供することになった。ロケハンはLAやNYは金が掛かりすぎるので断念し、テキサスを選んだ。バーンは自分が思い描いた町が目の前の景観に潜んでいることを確信。ダラスから北30マイル先のマッキネイという町に決まった。

「映画は音と映像の組み合わせで、ストーリーは観客の興味をそらさないためのテクニック」という美学を持っていたバーンは、キャスティングの匿名性に拘り、できるだけ顔の知られていない役者たちを起用した。さらに一発芸を持った人々も大量に集められた。そして1985年9月、6週間の撮影が始まった。トーキング・ヘッズの同名タイトルのアルバム『トゥルー・ストーリー』もテキサスで録音されることになった(余談だが収録曲には「レディオ・ヘッド」があり、90年代に英国のバンドを生むことになる)。

思えばデヴィッド・バーンは映像の人だった。もともとは大学で建築やデザインを学んだが、子供の頃から映画や写真を遊びで撮っていたらしい。80年代前半はMTV開局もあり、バーンは自らのバンドのビデオクリップも監督した。トーキング・ヘッズの音楽性同様、型にはまらない映像作りは現代美術館の永久保存コレクションになるほど。MTVからも先駆的作品賞を贈られている。

それにしても『トゥルー・ストーリー』を観ていると、日本の郊外都市や地方の都市空間とそっくりなことに少し驚く。消費の象徴である巨大なショッピングモール、定期に行われる代わり映えのない街のイベント、動画サイトに投稿されるような日常、画一化された住宅、突然訪れる風景の広がり、雇用を支える先進的企業、クセは強いがどこか寂しさを漂わせる登場人物……タワーマンションの乱立や箱型ショッピング施設の増殖で都心の表情までも郊外化しようとする現在、この映画には“奇妙なリアル”を感じる。

日本好きなバーンはあるプロジェクトのために80年代半ばに様々な場所をロケハンしたことがあるらしいが、彼は果たして何を見たのか?

音楽評論家の故・中村とうよう氏は本作を「デヴィッド・バーンが描いたアメリカ文化論」と評したが、世界的ゴスペルグループ、ステイプル・シンガーズのリーダーであるローバック”ポップス”ステイプルズや、テックス・メックスのアコーディオン奏者スティーヴ・ジョーダンなどがキャスティングされているなど、音楽地図も決して見逃せない。また、冒頭のテキサスの歴史説明や当時アップル社を退いていたスティーヴ・ジョブズの言葉も貴重なシーンだ。

映画は、カウボーイの男(デヴィッド・バーン)がテキサスにあるという「ヴァージル」の町をナビゲートするスタイル。そこのコンピュータ会社の労働者や資本家(婚活で自分PRに余念がない男、嘘ばかりついている女、ベッドで生活する怠け者の金持ち女、3年間会話を交わさない町の実力者夫婦など)の日常を中心に、“奇妙なリアル”が綴られていく。

ヒット曲「Wild Wild Life」もこの映画から生まれた


予告編

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DVD『デヴィッド・バーンのトゥルー・ストーリー』

*日本公開時チラシ
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参考/『デヴィッド・バーンのトゥルー・ストーリー』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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