平成(1989-2019)を駆け抜けた風景
2019年4月30日、31年続いた一つの時代が終わる。いや正確には、元号が新しくなるだけで劇的な変化は何も起こらないかもしれない。西暦で物事を見ることに慣れてしまっているせいもある。それでも来年5月以降、「平成」と呼ばれる日々はもう二度とやって来ない。
その始まりである平成元年は、1989年1月8日のことだった。無駄で派手な消費が賛美されたバブル経済真っ只中。ジャパンマネーが世界を牛耳り、制御不能でクレイジーな加速を続けていた。日経平均株価が最高値3万8915円を記録したのが同年末。80年代の終わりと平成最初の年に、あの狂乱のパーティはピークを迎えた。
それから30年という歳月が過ぎ去った。我々は様々な出来事や歴史的瞬間を目にしてきた。バブルはあっけなく弾け、リーマンショックに巻き込まれた。テロや震災の前で呆然となる一方で、団結した力強い復興に心震えた。相次ぐ凶悪な犯罪に憤りを感じながら、都市の風景がひたすら高層化と更新を繰り返していくのを眺めていた。日本人メジャーリーガーの活躍もサッカーW杯出場も、首相の顔触れが立て続けに変わることにも、世の中の至る所で経済格差や少子高齢化やインバウンドを感じることにも、もう誰も驚かなくなった。
30年はいろんなことを変えてしまう。史上最もリッチな青春な謳歌していた1960年代生まれの若者たちは、今ではほとんどが50歳を過ぎた。ゼロ年代に生まれた子供たちが、いつの間にか最新の若者になった。90年代の渋谷を眩いファッションとメイクで闊歩していたコギャルの女子高生たちの多くは落ち着いた母親や女子になり、80年代には虐げられ見えない存在とされていたゲームやアニメやコミックをはじめとするオタク文化が、今では日本を担うポップカルチャーになった。
中でもIT革命の浸透は、平成最大のイノベーションだろう。世紀末やミレニアムといった言葉が頻繁に飛び交っていた20世紀の終わりである1999年〜2000年。携帯電話にインターネットやカメラ機能が備わった。ゼロ年代半ばにはブログも登場し、マスメディアだけでなく誰もが場所を問わず情報を配信・取得できるようになった。10年代にはスマホやSNSアプリが広まり、ヒット商品やマーケティングはよりデジタル化され、雑誌やテレビのパワーが弱まった。またここ数年では、仮想通貨や評価経済などによってお金の概念さえ変わろうとしている。
東京の都心などは、まるで巨大なWebサイトのように見える。だが実際に街へ出ても、それらをクリックして中へ入っていく感覚はすでになく、スマホの画面をタップしてSNSの投稿を次々とフリックしているような、上滑りしていく浮遊感だけが強く残る。そして妙に子供じみた大人が増えた……この30年でとりあえず思ったことだ。
音楽を取り巻く環境はどう変わったのだろうか。平成元年はJ-POP元年と言われるだけでなく、アナログ盤の生産がストップしてCDの時代に移った年でもある。カラオケボックスやディスコの隆盛は、音楽を歌い手から聴き手の時代へと変えたとも言われる。ドラマやCMのタイアップはCDバブルにつながり、毎月何枚も買うのが当たり前になった。携帯電話は着メロや着うた、インターネットはダウンロードやストリーミングサービスを生んだ。気づけばCDが売れなくなっていた。
この30年間。バンドブーム、クラブカルチャー、渋谷系、野外フェス、日本語ラップ、集団アイドル、ボーカロイドといったように、他にも語るべきことは多い。さらに宇多田ヒカルを筆頭に世代を象徴するスターが新たに生まれる一方で、たくさんの伝説が亡くなったことも忘れてはならない。美空ひばりや尾崎豊が逝った。忌野清志郎も大瀧詠一も今はもういない。そして平成の歌姫・安室奈美恵が2018年9月に引退することを発表した。
今後、世の中ではこの時代に関する回顧コンテンツが増えていくことだろう。TAP the POPはこの「平成」を日本の音楽トピックで描き出そうと思う。正直なところ、その日が来るまで「平成」の終わりをまだ実感することができない。それまではパズルのピースを一つずつはめ込むように、この30年の音楽風景に耳を傾けていきたい。(中野充浩)
平成を駆け抜けた歌姫・安室奈美恵
世紀末に強烈なインパクトを放った宇多田ヒカル

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