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歌う人間の心が裸にされるような高倉健の「望郷子守唄」

2014.12.27

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素朴であるからこそ歌うのがむずかしい歌がある。
歌う技術だけではなく、歌う人間の心が投影されるからだ。

高倉健の歌で有名になった網走刑務所から生まれた「網走番外地」は、受刑者たちに口伝で広まっただけあった、歌いやすいメロディだった。
だが「望郷子守唄」のほうは民謡調、言葉の譜割りがかなり独特なものでしかも伴奏の音楽がシンプルすぎるほどシンプルだ。

この歌を聴くと朴訥に歌っている健さんが、実は歌心があるだけでなく、技術的にもすぐれたシンガーだとわかる。


「望郷子守唄」は健さんが主演するやくざ映画をリアルタイムで観ていたファンの間で、とくに人気が高かった歌のひとつだった。
それは健さんの歌声の魅力とセリフを話す声の魅力、その両方がよく出ていたからだろう。

一番と二番の間に入る独り語りのセリフは、健さんが演じ続けていた役柄を象徴していて特に味わい深い。

やくざ映画の中では登場人物たちの「母」や「故郷」を思う気持ちが、たびたび「望郷」というテーマで取り上げられた。

この「望郷子守唄」という歌からは、高倉健が主演する映画が5年間で3本も作られている。
初めが『ごろつき』(1968年)、次に『ごろつき無宿』(1971年)、そして『望郷子守唄』(1972年)とそれぞれ別の作品だ。
ただし、主人公の故郷が筑豊の炭鉱町だというところだけは共通していた。

映画『望郷子守唄』で「母」を演じた浪速千栄子は、故郷の九州の炭鉱、ボタ山のそばで男達に混じって、炭鉱の炊事婦として働いている母親だ。

高倉健 唄う人間の心が投影される

女手ひとつで子供を育てた母親は優しいだけではなく、気丈なところが美輪明宏の「ヨイトマケの唄」の主人公の母親を想起させる。

高倉健が”どうせ、世間からはじきだされたはんぱ者”と歌う「望郷子守唄」と、美輪明宏が”ぐれかけたけど やくざな道は踏まずに済んだ”と歌う「ヨイトマケの唄」は、ともに母への思いを取り上げながらも対をなす唄だということがわかる。

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