この「すみれ September Love」は、土屋昌巳(当時30歳)率いる一風堂が1982年7月21日に発売した6枚目のシングルである。
当時、最先端のスタイルやトレンドを反映していた化粧品のCMソング(’82カネボウ秋のキャンペーンソング)となり、約45万枚を売り上げるヒット曲となった。
人気のテレビ番組TBS『ザ・ベストテン』に初登場した時は、ロンドンからの中継で出演し、日本のお茶の間に強烈なインパクトを残した。
この曲の作詞を担当した竜真知子は、狩人の「あずさ2号」、キャンディーズの「ハートのエースが出てこない」などでも有名なヒットメーカーだった。
今日は「すみれSeptember Love」を生み出した土屋昌巳、そして一風堂にまつわるエピソードご紹介します。
──それは1970年代末から80年代への時代が移りゆく時期のことだった。
欧米の音楽シーンでは“新たなうねり”が巻き起こっていた。
ニューヨーク〜ロンドンのパンクロックに端を発した“ニューウェイヴ”と称される新ジャンルは、日本でもYMOなどのテクノポップなどを生み出し、それまでにないスタイルのアーティストたちを輩出していった。
一風堂もまた、そんな時代の申し子のような存在として誕生したバンドだった。
グループを率いた土屋昌巳は、小学生の時にビートルズを聴いて始めて音楽に目覚めたという。
14歳でギターを買い、親の目を避けて深夜に家の屋上で練習していたので、全くフレットを見ずに弾けるようになったという。
また、当時唯一のエフェクターであったファズを改造したり、自作のアンプを作るなど早くも独自のサウンドを研究し始める。
15歳の春、憧れのグループ「ゴールデン・カップス」のローディになるため家出をするが…一ヶ月のローディ生活の後、連れ戻される。
21歳になった彼は、六本木俳優座で歌手りりぃのバックをつとめたのをきっかけに本格的な音楽キャリアをスタートさせる。
このバンドで坂本龍一と出会う。
その後も大橋純子のバックバンドとして、その才能とテクニックに磨きかける。
そんな彼の方向性を大きく変えたのが、1976年からロンドンで大暴れしていたパンクバンド、セックス・ピストルズとの出会いだった。
ピストルズに強い影響を受けた彼は、それまで収集してきた1000枚を超えるレコードを50枚になるまで整理して、それまでの音楽観にとらわれない新たな音作りにとりかかったという。
1979年の3月、見岳章(キーボード・ウァイオリン)、平田謙吾(ベース)、藤井章司(ドラム)が集められ、土屋がギターとボーカルとシンセサイザーを担当する形で一風堂が結成される。
この“一風変わった”バンド名の由来は、当時渋谷駅の西口にあったディスカウントストアの店名からつけられたという。
土屋はその理由をこう説明している。
「何でもあったから。」
その短い言葉には“それまでの音楽観”にとらわれず、何でも吸収していく存在であるという意志が込められていた。
1980年、28歳になった彼はいよいよ一風堂としてデビューを果たす。
同年に映画『天平の甍』関係の懸賞論文に入選したのをきっかけに中国に渡ったり、2ndアルバムのレコーディングをベルリンで行うなど、彼は音楽スタイルや国籍を超えて活躍の場を広げてゆく。
翌1981年には、おそらく日本で初のプロモーションビデオ『COSMIC CYCLE』 を制作。
このビデオは、当時イギリスBBCのTV番組のリクエスト年間チャートベスト5に入るほどの完成度だった。
そして翌1982年に、自身の代表曲となる「すみれSeptember Love」リリース。
こうして世界進出と共に国内でも知名度を上げた土屋昌巳(一風堂)は、様々なアーティストのプロデュースを手掛けながら、イギリスの人気バンドJAPANにサポートメンバーとして参加するなど、まさに“新しい波(ニューウェイヴ)”を起こすアーティストとして注目を集める存在となっていった。
その後、一風堂は1984年 に解散。
土屋は1990年よりロンドンに移住し、THE WILLARD、BLANKEY JET CITY、マルコシアス・バンプのプロデュースで健在振りをアピール。
その後LUNA SEAのギタリスト・SUGIZOの勧めで再びソロアーティストとしても復帰する。
現在、土屋は日本に住みながら、還暦を過ぎても衰えることのない感性とテクニックで幅広い音楽ファンを魅了し続けている。
【土屋昌巳オフィシャルサイト】
http://mazzybunnyinc.wixsite.com/masamitsuchiya
<引用元・参考文献『J-POP名曲事典300曲』/富澤 一誠(ヤマハミュージックメディア)>
執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
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