「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the LIVE

なぜポール・シムノンはステージの上でベースを叩き壊したのか?

2024.09.21

Pocket
LINEで送る

その1枚が撮影されたのは、1979年の9月21日、ニューヨーク・パラディウムで開かれたコンサートでのことだった。

この年の夏、ロンドンで新作アルバム『ロンドン・コーリング』のレコーディングを終えたクラッシュは、2回目となるアメリカでのツアーをスタートさせていた。

2ヶ月近くにわたって、アメリカ各地を回るという強行スケジュールだったが、ジョー・ストラマーの溢れんばかりのバイタリティに導かれるようにして、バンドはゆく先々で快進撃を続けていった。

この頃にはアメリカでもクラッシュへの関心は高まっていて、ボブ・ディランをはじめとして多くのミュージシャンがコンサートに足を運んでいる。

ニューヨークでのコンサートは9月20日からだった。会場となったパラディウムは1927年に建造された映画館で、1976年にコンサートホールとして改修された。

事件が起こったのは2日目のことだった。バンドは初日よりも調子を上げ、ショウは順調に進んでいた。しかし、最後の曲「白い暴動」を演奏しているときに突然、ポール・シムノンがベース・ギターを床に叩きつけたのだ。

その衝撃に耐え切れず、ネックの部分が見事に折れてしまった。当時、クラッシュの専属カメラマンをしていた写真家、ペニー・スミスによって、まさに叩きつけようという瞬間がフィルムに収められた。

その写真を『ロンドン・コーリング』のジャケットに使おうと提案したのは、ジャケットのデザインを手がけることになったイラストレーターのレイ・ローリーだ。ところが写真がピンぼけしていることを理由に、ペニーはその提案を拒否した。

失敗したと思っている写真をジャケットに使われることに、プロとして抵抗を抱いたのは当然の反応だろう。しかし、レイのアイディアにジョーも賛同したことで、ペニーが押し切られる形となり、ポールがベースを壊す瞬間の写真が使われたのである。

london_calling

左と下に置かれたL字型の文字組みは、エルヴィス・プレスリーのデビュー・アルバムに対するオマージュだ。

Elvispresleydebutalbum

完成したジャケットはエルヴィスさながらの衝動的なエネルギーに満ち溢れて、ロックンロールへの原点回帰ともいうべき仕上がりとなる。

当初は写真を使われることに抵抗していたペニー・スミスだが、2013年のある対談ではこうコメントしている。

「もしポールの顔が写っていたら、それがどうであれ、あんなふうにはならなかったでしょうね。だってそのおかげで印象的なんだから」


一見しただけでは誰がベースを叩き壊しているのか分からない。だからこそこの写真はパンク、あるいはロックの象徴ともいうべき1枚になったのだろう。

ところで、当のポールはベースを壊してしまったことをすぐに後悔したという。

そのベースは、フェンダー社のプレシジョンというモデルで、「プレッシャー」という文字が書かれ、ドクロのステッカーが貼られている。『ロンドン・コーリング』のレコーディングのときにも使ったもので、音がよくてポールはとても気に入っていたという。

ではなぜそんな大切なベースを、ステージの上で衝動的に叩き壊してしまったのだろうか。

「ショウはとても順調だったよ。俺を除いてね、どうにも調子が掴めなかったんだ。それでベースに八つ当たりしたんだと思う。もし俺が賢ければスペアのほうに持ち替えて弾いてたんだろうな。俺が壊したほうより音が良くなかったし」



(このコラムは2016年3月1日に公開されたものです)


The Clash『London Calling』
Sony

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the LIVE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ