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街の歌

無縁坂〜母の人生を坂道に喩えながら綴ったさだまさしの名曲

2024.04.18

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この「無縁坂」は、さだまさしが23歳の時(1975年)にグレープの6枚目のシングルとして発表した楽曲である。
東京都文京区湯島4丁目に実在する坂を舞台に、年老いた母に対する息子の想いが歌詞に綴られている。
この何か意味ありげな名前を持つ坂。
一体どんな坂なのだろう?そして、この歌はどんな経緯で紡がれた歌なのだろう?



──東京・上野の不忍池(しのばずのいけ)を背に、本郷方面へと歩くと東西に延びた200mほどの坂道がある。
南側には三菱財閥の創設者である岩崎家の石垣が続く。
北側には火事の多かった江戸の町から今なお現存している防火建築漆喰(しっくい)造りの講安寺や、東大医学部が広がっている。
その坂はかつてここにあった寺の名前(無縁寺)に由来して“無縁坂”と名付けられたという。
江戸時代の地図にもその名が残っている坂である。
明治の文豪・森鷗外の小説『雁』は、この界隈を舞台にしていて、主人公の青年は、無縁坂を散歩道としてよく歩いていたとされている。
時を経て…昭和の時代になって、再びこの坂を有名にしたのが、さだまさしが書いた「無縁坂」だった。
まだ若かった頃のさだの母が、幼い僕=さだの手を引いて「この坂を登るたび いつもため息をついた」というフレーズから始まるこの歌は、不遇だった自分の母親のことを大人になってから想い起すという設定の歌である。
この「母」と「僕」の二人はなぜこの坂を登ったのだろう?
さだ自身の“人生の軌跡”に誕生秘話があったという。
彼は1952年に長崎県長崎市で生まれた。
長崎は平らな道が少なく、道の多くは坂道か階段だという。
坂の下には長崎湾が広がる風景が、少年の頃から彼の脳裏に焼きついていた。
彼は幼年期から恵まれた家庭に育ち、バイオリンに熱中した。
照れ屋だったため、母とも手を繋いで歩いたことがなかったという。
バイオリン教室に通う時は、いつも母が付き添ってくれた。
その“腕”を磨くために、彼は中学一年から単身で上京することとなる。
12歳から一人で暮した街で、彼は寂しさを紛らわすように歴史を訪ねる散歩を重ねたという。
鷗外に魅せられて、この坂道を何度も歩いたという。
高校に入学すると音楽以外に小説にも興味を抱き、ペンを走らせるようになる。


歌の出だしとなる言葉は、彼が当時書いた小説の一節だった。
彼は、この短い詩を自分の心の引き出しにしまったままでいた。
1973年、彼は21歳でグレープとしてデビューを果たす。
翌1974年に「精霊流し」がヒットする。
23歳になった彼は、日本テレビのドラマ『ひまわりの詩』の主題歌を依頼される。
三浦友和、池内淳子主演で描かれるその物語のテーマは“お母さん”だった。


──彼は大切に胸の引き出しにしまっておいた“あの坂の詩”のことを思い出した。
その一節を歌の冒頭にそのまま引用することを決めて、創作にとりかかった。
母は“子育て”という坂道を登ってゆく。
その背中を見る息子は、母に対してどういう想いを抱いていたのだろう?
自問自答をくり返し…彼は母の人生を坂道に喩えながら、息子の想いを歌に込めた。

マザコンとか“暗い”とかという評はあったけど、年配の男性には食い込んだ歌ですね。
今でもコンサートで歌うと、この歌で泣いている方がいらっしゃいます。
“無縁”という言葉の響きが、母への切なさを感じさせるのでしょうね…。


「忍ぶ」「不忍池」と意味ありげに言葉を繋ぎながら、寂しさを紛らわすように歩いた東京の風景と、長崎で過ごした母との思い出を、巧みに折り重ねるようにして一篇の詩を綴ったのだ。

バイオリン教室に付き添ってくれた母との思い出と、長崎の坂道の風景も重なっています。
東京にも、港区や文京区に風情の残る坂道がたくさんあります。
坂道はどこか人生を感じさせますね。




<引用元・参考文献『東京歌物語』/東京新聞編集局・編著(東京新聞出版部)>


【さだまさしオフィシャルサイト】
http://www.sada.co.jp


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