「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the ROOTS

子守唄が失楽園に変わるマジック

2024.06.19

Pocket
LINEで送る

黄金のまどろみが、あなたの瞳に口づける
起き上がれば、そこには数々の笑顔
おやすみ、可愛い子
泣くのはおよし
私が子守唄を歌ってあげるから
ゆらゆら、ゆらゆら、子守唄


ポール・マッカートニーがその楽譜と出会ったのは、チェシャー州にある父の家だった。ポールの母親の死後、再婚していた父にはルースという娘がいた。ポールは義理の妹にあたるルースのピアノの近くに置かれていた童謡集の中で、「ゴールデン・スランバーズ」に出会ったのである。

「ゴールデン・スランバーズ」は、1603年、イギリスの劇作家トーマス・デッカーが発表した喜劇「ペイシェント・グリッシル」の劇中に歌われたもので、その後、子守唄として歌い継がれてきたものだった。


ポールは楽譜に合わせてピアノを弾こうとした。だが、メロディーをうまく思い出せなかったし、きっちりと楽譜を追う気にもなれなかった。そこで歌詞に合わせて、新しいメロディーをつけたのである。

そして、この古き良き子守唄は、メロディーだけでなく、ポールが付け加えた歌詞により、ガラリとその印象を変えることになった。

かつてそこには、家へと続く道があった
かつてそこには、家へ帰れる道があったのさ


かつて。。。それは、いつのことなのだろうか。

まだ幼いポールが父と、そして最愛の母と過ごした、あの頃のことなのかも知れない。まだビートルズがリヴァプールで演奏していた、青春時代のことかも知れない。だが、最愛の母は今はなく、ビートルズも今や解散の危機を迎えていた。

おやすみ、可愛いダーリン
泣くのはおよし
僕が子守唄を歌ってあげるから


そして歌は、冒頭に紹介したトーマス・デッカーの子守唄につながっていくのである。そして、また。。。

かつてそこには、家へと続く道があった
かつてそこには、家へ帰れる道があったのさ


そして哀愁を帯びた「ゴールデン・スランバー」は突然、「キャリー・ザット・ウェイト」へと引き継がれる。

ボーイ、君はその重荷を背負うことになる
ボーイ、君はその重荷を長いこと
背負うことになるのさ


ビートルズのメンバー全員がコーラスに参加したこの曲の歌詞には、これといった展開がない。ただひたすら、「長い間、重荷を背負うことになる」ことが重たい十字架のように、暗い予言のように、聴く者に迫ってくるのである。

そこで再び、あの「子守唄」の歌詞が気になってくる。パーソナルな歌が突然、普遍的な意味合いを持つことがある。

たとえば、「レット・イット・ビー」は、ポールがマリア叔母さんのことを思い浮かべて作った曲だが、聴く者の多くは「マザー・マリー」と聞いて、聖母マリアを連想した。

そして、この「子守唄」は、「家路を失った」という冒頭の歌詞と、「重荷を背負う」未来を突きつけられることによって、聖書のある場面を思い起こさせる。

それは多くの作家が題材とした、アダムが楽園を追われる物語なのだ。


ビートルズ『アビイ・ロード』
EMI

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the ROOTS]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ