黄金のまどろみが、あなたの瞳に口づける
起き上がれば、そこには数々の笑顔
おやすみ、可愛い子
泣くのはおよし
私が子守唄を歌ってあげるから
ゆらゆら、ゆらゆら、子守唄
ポール・マッカートニーがその楽譜と出会ったのは、チェシャー州にある父の家だった。ポールの母親の死後、再婚していた父にはルースという娘がいた。ポールは義理の妹にあたるルースのピアノの近くに置かれていた童謡集の中で、「ゴールデン・スランバーズ」に出会ったのである。
「ゴールデン・スランバーズ」は、1603年、イギリスの劇作家トーマス・デッカーが発表した喜劇「ペイシェント・グリッシル」の劇中に歌われたもので、その後、子守唄として歌い継がれてきたものだった。
ポールは楽譜に合わせてピアノを弾こうとした。だが、メロディーをうまく思い出せなかったし、きっちりと楽譜を追う気にもなれなかった。そこで歌詞に合わせて、新しいメロディーをつけたのである。
そして、この古き良き子守唄は、メロディーだけでなく、ポールが付け加えた歌詞により、ガラリとその印象を変えることになった。
かつてそこには、家へと続く道があった
かつてそこには、家へ帰れる道があったのさ
かつて。。。それは、いつのことなのだろうか。
まだ幼いポールが父と、そして最愛の母と過ごした、あの頃のことなのかも知れない。まだビートルズがリヴァプールで演奏していた、青春時代のことかも知れない。だが、最愛の母は今はなく、ビートルズも今や解散の危機を迎えていた。
おやすみ、可愛いダーリン
泣くのはおよし
僕が子守唄を歌ってあげるから
そして歌は、冒頭に紹介したトーマス・デッカーの子守唄につながっていくのである。そして、また。。。
かつてそこには、家へと続く道があった
かつてそこには、家へ帰れる道があったのさ
そして哀愁を帯びた「ゴールデン・スランバー」は突然、「キャリー・ザット・ウェイト」へと引き継がれる。
ボーイ、君はその重荷を背負うことになる
ボーイ、君はその重荷を長いこと
背負うことになるのさ
ビートルズのメンバー全員がコーラスに参加したこの曲の歌詞には、これといった展開がない。ただひたすら、「長い間、重荷を背負うことになる」ことが重たい十字架のように、暗い予言のように、聴く者に迫ってくるのである。
そこで再び、あの「子守唄」の歌詞が気になってくる。パーソナルな歌が突然、普遍的な意味合いを持つことがある。
たとえば、「レット・イット・ビー」は、ポールがマリア叔母さんのことを思い浮かべて作った曲だが、聴く者の多くは「マザー・マリー」と聞いて、聖母マリアを連想した。
そして、この「子守唄」は、「家路を失った」という冒頭の歌詞と、「重荷を背負う」未来を突きつけられることによって、聖書のある場面を思い起こさせる。
それは多くの作家が題材とした、アダムが楽園を追われる物語なのだ。
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