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青い衝動を封じ込めたザ・ブルーハーツのデビュー・アルバム『THE BLUE HEARTS』

2025.03.16

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1980年代の初め頃、「ザ・コーツ」という、東京モッズシーンのバンドで活動していた甲本ヒロト(以下、ヒロト)と、同じくモッズバンドの「ザ・ブレイカーズ」の真島昌利(以下、マーシー)が出会って意気投合。「ザ・ブルーハーツ」(以下、ブルーハーツ)が結成されたのは、1985年のことだった。

メジャーデビュー前からブルーハーツは話題を集め、1987年2月にインディーズ・レーベルから「人にやさしく」をリリース。

その後のオリジナル・アルバムに収録されなかったにもかかわらず、今でもブルーハーツの中で1位2位を争うほどの人気曲だ。この曲は、ヒロトがザ・コーツ時代から「がんばれのうた」として演奏していた。

そして、1987年5月1日に「リンダリンダ」で衝撃のメジャーデビューを果たし、3週間後には1stアルバム『THE BLUE HEARTS』がリリースされた。

一般的に、バンド名をタイトルに名付けたアルバムというのは、バンドが自信を持って送り出す一枚であることが多い。また、バンドのメッセージやコンセプト、音楽スタイルなど、バンドの特徴を最も表しているもので、後に代表作になるであろう、という意味合いも強いだろう。

ブルーハーツの『THE BLUE HEARTS』も例に漏れず、まさにその様なアルバムと言える。何よりも、ヒロトとマーシーが紡ぎ出す、その生々しいメッセージが当時多くの若者の心を捉えた。

どの曲も歌詞やメッセージがストレートで、パンク・スピリットに溢れている。生きにくさを叫び、社会や大人たちに対する反骨精神をむき出しにした。また、ザ・コーツ時代からヒロトが歌っていた「少年の詩」や「NO NO NO」も、アルバムに収録された。

「リンダリンダ」の「ドブネズミみたいに美しくなりたい」というような突拍子もない歌詞は、強いインパクトと同時に多くの若者の共感を呼んだ。

それは、明るく華やかなバブルの時代にありながら、実際は閉塞感を感じていた若者が多かったということではないだろうか。矛盾だらけの社会に対して、「クソッタレ」と大人たちに毒づくマーシーやヒロトの言葉は、多くの若者の悶々とした心に風穴を開けてくれたのだ。

反骨のロック、パンク・ロックは1970年代に英国で生まれた。そして日本にもそれ以降、人気のあるパンクバンドは存在した。

しかし、これだけピュアでストレートなメッセージを、わかりやすい日本語で歌ったパンク・ロックは、これまでになかった。ヒロトのステージ・パフォーマンスも含め、何もかもが新鮮だった。

パンク・ロックのバンドを組んでいたアマチュア時代の草野マサムネ(スピッツ)は、ブルーハーツを聴いて衝撃を受け、一時期バンド活動を休止してしまったという話もあるほどだ。

ブルーハーツの曲は、そのほとんどがヴォーカルのヒロト、またはギターのマーシーのどちらかによって書かれている。

『THE BLUE HEARTS』はパンク色の強いアルバムだが、ブルーズやR&Bなどからも影響を受けたというヒロトと、ビートルズからも影響を受けたというマーシーは、その後もパンク・ロックというジャンルに縛られることなく自由な表現で、自分たちのロックン・ロールを鳴らすことを試みてきた。

そして1995年のバンド解散後も、ヒロトとマーシーはザ・ハイロウズを、2006年にはザ・クロマニヨンズを結成し、共に活動し続けている。

しかし解散後、彼らがブルーハーツの楽曲を演奏することは二度とない。

世の中にいろんな価値観が出尽くして、最後にその全ての価値観に外れちゃった人がいたとする。そいつにとって最後に残された可能性がロックなんだ。人類がまだ把握できていない価値観がロックの中には存在するんだよ。それを僕は「最後の価値観」って呼ぶんだけど。


その「最後の価値観」がロックの中にあるのだから、他に失っていくものに対して未練を感じなくていいと、ヒロトはブルーハーツ解散時のインタビューで語っている。

ブルーハーツの彼ら4人が駆け出した頃の、一番ピュアで青い衝動を、パンク・ロックという形で定着させたのが『THE BLUE HEARTS』だった。

ほぼ一発録りでレコーディングされたこのアルバムは、まさにブルーハーツのタイトル通り“青い心”が表現されたアルバムと言っていいだろう。

それは、当時の彼らにしか表現できないものだった。永遠に封じ込められたからこそ、今もピュアさを失わず輝きを放っているのだ。


参考文献及び引用元:MSムック King of Rock Band THE BLUE HEARTS アイピーコーポレーション


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