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アメリカで大ヒットした「上を向いて歩こう」に付けられたタイトル「SUKIYAKI」の由来

2014.07.20

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日本から世界へと言葉の壁を超えて届けられた最初の歌が、坂本九の「上を向いて歩こう」だったことは良く知られている。

だが1961年から翌年にかけて日本で大ヒットしたこの歌が、1962年の夏にフランスを始めとするヨーロッパ各国でも、日本語のままレコードが発売されていたことはほとんど知られていない。

当時21歳で人気絶頂のアイドル歌手だった坂本九はフランスからデンマーク、ノルウェー、イタリア、スイスと五カ国を2週間で廻り、テレビ出演するなどのプロモーション活動も行っていた。

フランスのレコード会社パテ・マルコニーはこのとき、坂本九が歌う日本語のままで通用すると判断していた。
しかし残念なことにマーケットからはあまり良い反応が得られないまま、このときはヒットせずに終わってしまう。

今になってみればわかることだが、ローマ字は日本語を無理やりアルファベット表記したもので、外国ではまったく通用しなかった。ローマ字で書かれたタイトルの「UEO MUITE ARUKOU」を、ヨーロッパの国々ではどこの国の言葉か理解できなかったし、発音すらできなかった。

発音できないのだから、曲名を覚えることも出来ない。
タイトルが日本語のローマ字だったことが、セールス面にとって致命的な弱点だったのである。

だからイギリスで1963年の1月にケニー・ボールがジャズにアレンジしたとき、そのインスト・ヴァージョンは「SUKIYAKI」と名付けられて発売された。
言葉の意味ではなく、日本を感じさせる響きだったことで名付けられたのだった。
それがシングル・チャートで10位に食い込むスマッシュ・ヒットになる。

同じ時期にイギリスからすごい勢いでブレイクし始めたのがデビュー間もないビートルズで、セカンド・シングル「プリーズ・プリーズ・ミー」はイギリスだけでなくヨーロッパ各地で大ヒットした。

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アメリカでは4月下旬に坂本九の歌ったオリジナルのレコードが、メジャーのキャピトルから「SUKIYAKA」のタイトルでプロモーション盤が放送局に配布された。

各地から好反応があり、ヒットの兆しが見えたところで「SUKIYAKI」に変更されて一般にも発売になった。

ラジオから火がついた「SUKIYAKI」はノンプロモーションだったにも関わらず、大ヒットして6月15日から3週間、全米シングルチャートの1位に輝いた。

アメリカ各地のラジオ局やジューク・ボックスから盛んに流れていた「SUKIYAKI」を、十代の若者たちは日本語で歌いたくて一生懸命に覚えようとしたそうだが、ほとんどは難しくてあきらめたという。
それでも間奏の16小節が口笛のソロだったおかげで、日本語で歌えなくてもメロディを一緒に口ずさめるという点で、作・編曲した中村八大のアレンジは効果的だった。

当時の雑誌がニューヨーク特派員の報告として、こんなふうに伝えている。

ニューヨーク・セントラルパークを散歩していると「UEO MUITE ARUKOU」のメロディーを最近よく耳にする。見ると、一七、八歳の若ものが、楽しそうに口笛を吹いているのだ。

繁華街の中心地、タイムズ・スクエアにあるレコード屋の前を通っても、決まって聞こえてくるのが、この「上を向いて歩こう」。坂本九が日本語で歌うこの曲は、今やアメリカでもヒット曲になった。

(『週刊サンケイ』1963年7月1日号)



ちなみに同じ時期にアメリカ進出を狙って発売されたビートルズの3枚目のシングル「フロム・ミー・トゥ・ユー」は、イギリスで7週間連続1位のヒットになったものの、アメリカでは時期尚早だったのか不発に終わり、最高でも116位止まりだった。

ところで坂本九のヴァージョンはすぐにタイトルが「SUKIYAKI」に変更されたが、ビリーボーン楽団のインストによるカヴァーや、カナダのルシール・スターが歌ったヴァージョンは、その後も「SUKIYAKA」のまま発売されている。


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坂本九『上を向いて歩こう』
EMIミュージックジャパン

佐藤剛『上を向いて歩こう』(書籍)
岩波書店

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