Extra便

8月1日にMTVが開局して僕たちは音楽を見た。親が寝静まった後に訪れる夢のような時間だった。

2017.08.01

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1981年8月1日の午前零時過ぎ。“見えるラジオ”をコンセプトにした『Music Television』(以下MTV)の放送がスタートした。音楽ビデオを24時間流し続けるプログラムとして、アメリカの若い世代や時代の空気を変えてしまうことは必至の画期的な出来事だった。記念すべき最初のビデオクリップがバグルスの「Video Killed the Radio Star」だったことは、今や洒落た伝説だ。

これによって、まずMTVが観たいからCATVに加入するという現象が起き始める。当初は田舎町から始まった動きが、1983年にはNYやLAといった大都市でも開局に至った。

音楽を取り巻く環境でも当然マーケティングは変わる。レコード会社にとってMTVは、新たなプロモーションメディアに位置づけられた。売り出したいアーティストがいたら地道に各地をツアーで回るようなリスクや時間を取らせなくても、印象的なビデオクリップさえ制作すればそれ以上の効果が素早く期待できるようになったのだ。

特にデジタル機材を活用したポップなサウンドと華やかなヴィジュアル性に富んだ英国の若手アーティスト(デュラン・デュランやカルチャー・クラブなど)がその恩恵を受けた。彼らがヒットチャートを独占するいわゆる「第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれる動きは、MTVならではのムーヴメントだった。

音楽は、それまでの聴くものから“観るもの”へとシフトチェンジする。画面の中で軽快に喋ったりクリップを紹介したりするビデオ・ジョッキー(マーク・グッドマン、J.J.ジャクソン、ニナ・ブラックウッドなど)がMTV黄金期のムード形成に果たした役割も忘れてはならない。音楽を視覚的に広めるという瞬発力は凄まじく、MTVは若者文化/ポップカルチャーの主役に一気に躍り出た。

誰もが作り方自体を模索していたビデオクリップにも、1980年代中頃になると次の段階がやって来る。知名度の高いアーティストを中心にそれまでの宣伝ツールから、“作品主義”として転化する動きが本格化。例えば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」は約15分にも及ぶ映像作品で、それは当然のように莫大な制作費が投下されていた。

もはやライブやステージでの演奏を単に撮影するだけでは視聴者は満足しない。ドラマチックな演出や目を見張るような加工が必要なのだ。1984年から開催されたMTVアワードの設置によって、音楽ビデオを専門に手掛けるMVディレクターというクリエーターの存在にもスポットライトが当たるようになった。

こういった類いのビデオクリップが提供する世界観は絶大な効果を生み、曲が収録されたアルバムには驚くべきミリオンセラーやロングセラーがジャンルに関係なく続出した。プリンス、マドンナ、ホイットニー・ヒューストン、ヴァン・ヘイレン、ボン・ジョヴィ、フィル・コリンズ、ジョージ・マイケル、ヒューイ・ルイスなどが全米だけで1000万枚規模のセールスを記録したのは、この影響力なくして語れない。もともと映画という背景があるサントラ盤の大量ヒットも、この時代の必然だろう。

こうしてMTVはヒットチャート至上主義的な編成に偏っていくが、そんな徹底した商業的な動向が当時の有望なインディーズ・バンドたちをカレッジ・ラジオによる独自のネットワークへと向かわせ、後にオルタナティヴ・ロックとして彼らにメインストリームを逆転されてしまうのは、何とも皮肉な音楽的事件だった。

ところで、当時まだCATVの土壌がなかった日本では、若者受けが100%約束されたこの新しい音楽メディアに対してどんなフォローをしたのだろう?

1981年に『ベストヒットUSA』、1983年に『SONY MUSIC TV』、1984年に『ザ・ポッパーズMTV』などが始まって、その雰囲気を丁寧に伝えてくれていた。真夜中に放送されるそれらの情報番組は、音楽を心の底から愛する少年少女たちにとって、親が寝静まった後に訪れる夢のような時間だった(動くアーティストたちだけでなく、ビデオ・ジョッキーのマーサ・クィンに恋したりもした)。

次に流されるビデオクリップやアーティストの最新情報が楽しみでたまらなかった。そして印象的なジングルとMTVのロゴは、いつも遊び心に満ち溢れていた。深夜の創造力をかき立ててくれた。この時期に青春期を過ごした人なら分かるだろう。今の40代はTVで洋楽を観て慣れ親しんだ最初の世代だった。

1990年代後半にネットカルチャーが台頭して、好きな時に好きなものをというニーズが高まったこともあり、ビデオクリップを一方通行的に流すプログラムは徐々に存在価値を失っていく。以後、MTVはドラマやリアリティ番組がメインとなった。

今夜はあの頃のように、好きなビデオクリップをひたすら観るような、そんなひとときを過ごしてみるのもいいかもしれない。もちろん子供が寝静まった後に。


最初のビデオクリップ
放送初日、集まったビデオはたったの165本。そのうち30本がロッド・スチュワートのビデオだった。他に多くを占めたのはイギリスの新人バンドのクリップ。これはアメリカの地上波TV向けのプロモーションツールとして作っていたため。一方、アメリカのバンドのほとんどはツアーやラジオがプロモーションの基本だった。


記念すべきMTV第1回目のスタート


最初に流れた曲「Video Killed the Radio Star」

みんなが恋したVJのマーサ

MTVアワード第1回(1984)のベスト・ビデオ〜カーズ「You Might Think」

MTVアワード第2回(1985)のベスト・ビデオ〜ドン・ヘンリー「The Boys of Summer」

MTVアワード第3回(1986)のベスト・ビデオ〜ダイアー・ストレイツ「Money for Nothing」

MTVアワード第4回(1987)のベスト・ビデオ〜ピーター・ガブリエル「Sledgehammer」


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*当記事は2014年7月31日に初回公開されたものに、一部加筆しました。

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