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ストーンズやツェッペリンが100万ドル積んで欲しがったロバート・ジョンソンの“3秒半”

2017.01.23

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ことの起こりは、ミシシッピ州ルールヴィルというスモールタウン。町の古い映画館の倉庫から、埃が積もった16ミリのフィルムの束が見つかったのだ。

オーナーのベムは何十年も前に、16ミリのサイレントでルールヴィルの日常生活や通りを行き交う人々を撮影。彼は当時、そのフィルムを自分の映画館で上映して、スクリーンで実物大以上に映る自分を見た観客たちから大好評を博していた。

見つけ出したのは、祖母がこの映画館で働いていたレオ・オールドレッド。彼はメンフィスの人気ラジオ局でブルーズ番組を担当するほか、ツーリストで賑わう有名なビール・ストリートでブルーズ雑貨店を営むほど、ブルーズを心から愛する男だった。リスナーや店の常連たちは親しみを込めてテイター・レッドと呼んでいた。

貴重なフィルムは、保存のために可能な限りビデオに移し替えられ、マスターテープが制作された。コピーはもちろんテイターの手にも渡った。ある夜、ビデオを観ていたテイターは、わずか3秒半の街角のシーンで思わず息を止めることになった。そこには映画館の近くで“ギターを弾く若きブルーズマン”の姿。

「こいつには見覚えがある」

そう思ってビデオを一時停止し再生しては、この短い映像を何度も食い入るように見続けた。

「そんな馬鹿な。そんなワケはないだろ……いや、でももしかすると……どう見てもあの男にそっくりじゃないか」

テイターは自分のコレクションから“ロバート・ジョンソン”の写真を取り出し、ビデオに映っている男と比較した。

「これは間違いないぞ!」

このフィルムがどれだけの話題を呼び、歴史的な価値があるか分かっていたテイターは、問題の男をブローアップしてプリントした。そしてブルーズに詳しい知り合いに回覧して判断を仰ぐことにした。みんなが口を揃えて“ロバート・ジョンソン”か、瓜二つの誰かだろうと判定を下した。もちろんロバート・ジュニア・ロックウッドら“ロバート・ジョンソン”を知っていたブルーズマンたちにも確かめた。「あいつだ!」と彼らは何のためらいもなく断言した。

3秒半のフィルムの断片に関する噂は、急速に世界のマスコミに広がった。次第にテイターのもとには、電話や問い合わせ、訪問者や記者たちの取材が相次いだ。来る日も来る日も途切れることはなかった。

さらに自分の店には、あのレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとロバート・プラントが現れた。二人は何時間も店内をうろついた後、問題のフィルムのことを訊ねてきた。テイターがビデオを見せると、彼らも“ロバート・ジョンソン”に間違いないと言って、信じられない顔をした。この時、100万ドルで売らないかと持ちかけられたが、売り物じゃないし、フィルムのコピーなら既に出回っているとテイターは答えた。

ローリング・ストーンズもそのフィルムに食いつき、テイターに直談判。マスコミは、6〜7桁の数字が提示されたと報じた。テイターはこうした騒ぎにほとほと疲れ果て、嫌気がさしたので、ミシシッピ大学の南部文化研究センターにすべてを任せることにした。

1998年。オハイオで行われたロックンロール・ホール・オブ・フェイムに、テイターは招待された。伝説のブルーズマン“ロバート・ジョンソン”週間の一環としてシンポジウムが開催されるのだ。既に研究家や専門家たちの一団がフィルムを精査しているという。

ステージでは3秒半のフィルムがプロジェクター上映された。続いて専門家がパワーポイントによるプレゼンテーションを開始。映画館の近くで“ギターを弾く若きブルーズマン”の姿がハイテク技術で分析される。“ロバート・ジョンソン”を目で追っているだけでは誰も気づかなかった、背景の映画館のポスターが拡大される。その映画のタイトルは『Blues in the Night』。

これは1941年に“公開”された映画だった。ゆえにフィルムの“ギターを弾く若きブルーズマン”は彼ではない。あるはずがない。なぜなら“ロバート・ジョンソン”は1938年に亡くなっている。以上、証明終わり。

テイターはその後、マイクを渡され、専門家たちから尋問のような扱いを受けた。まるで何か重罪でも犯したように、徹底的にやり込められた。自分はただブルーズを心から愛しているだけなのに。「待ち伏せされて袋だたきにあったような気分だよ」

ツェッペリンやストーンズをも巻き込んだこの騒ぎは一気に沈静化した。しかし、一つの疑問が浮上する。もし“ロバート・ジョンソン”でなかったのなら、あの男は一体誰なのか? 伝説のブルーズマンの旅路はこれからも続いていく。

シンポジウムにて。問題のフィルムは1分50秒あたりから。


*参考・引用/『ロバート・ジョンソン クロスロード伝説』(トム・グレイヴズ著/奥田祐士訳/白夜書房)

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