「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

Extra便

オノ・ヨーコさんの英語詞で生まれ変わった21世紀の「上を向いて歩こう」

2014.02.19

Pocket
LINEで送る

2014年2月に東京で開かれたオリー・マーズのライブに、オノ・ヨーコさんから「Look At The Sky」に関するこんなメッセージが届けられた。

「上を向いて歩こう」は素晴らしい曲です。この曲のスピリットが、再び世界の人々を励ますことになればと思い、英語詞をお引き受けいたしました。
私の81歳の誕生日に、初めて披露されると聞いてとてもうれしく思っています。

2014年2月18日 ニューヨークにて


「上を向いて歩こう」は1963年の6月15日に全米チャートのナンバーワンになり、そこから世界中へと広まった。
その時は坂本九が歌うオリジナルの日本語だったので、ほとんどすべての人たちが歌詞の内容を知らないままヒットしたのだった。

その後も1981年に女性グループのテイスト・オブ・ハニーが、英語詞によるR&Bバージョンの「SUKIYAKI」を発表すると、全米R&Bチャートではナンバーワン、ポップスチャートでも3位となるヒットを記録した。

それ以降はその英語詞を筆頭にして、世界中でいくつもの言語によってカバーされて現在に至っている。
だがオリジナルの歌詞に永六輔が託した思いと、込められていたメッセージとはかけはなれた内容が多かった。

作曲した故・中村八大さんの長男で、長く音楽ビジネスに携わってきた中村力丸さんは、「永さんの歌詞をきちんと伝える英語詞が必要だとずっと思っていた」という。

全米1位になってから半世紀を迎えた昨年、中村さんは50周年を期して日本と西洋という、異なる文化の双方に通じるオノ・ヨーコさんに新たな英語詞を依頼した。

Look at the sky when you / walk through life
See how the stars blur / when your tears flow
As you remember / the Summer days so bright
On this lonely, lonely night

空を見てごらん 人生を歩むときは
涙が流れると 星のきらめきに気づく
思い出すだろう あの夏の輝ける日
こんな寂しい ひとりぼっちの夜


出来上がってきた「Look At The Sky」を最初に歌うシンガーに選ばれたのは、中村さんがライブを観て「坂本九さんにも通じる親しみやすさ”とエンターテイメント性を感じた」という、イギリスのオリー・マーズであった。

中村さんは普遍的な歌詞と明るいメロディーを持つ「上を向いて歩こう」を、日本人がどう受け止めているのかについて書いた手紙を、オリーに送った。

悲しみは誰にでも訪れる。
自然災害や戦争が大勢の人を襲うこともあれば、個人の精神の内面が傷つくという形でも訪れる。
人は誰もが必ず、悲しみを負っている。
だからこそ、「上を向いて歩こう」というメッセージから、個人の尊厳を思い出し、他者への共感を覚える。
そして他者への共感から、明日への小さな希望を見出して歩いていく。
どうか世界中にいる貴方の聴衆に向けて、この歌を歌って下さいますように。
貴方が「Look At The Sky」を歌うことで、世界中の人が、それぞれの空の下で、他者への共感を覚えることができると信じています。


2月18日の来日公演でオリーは満員の観客を前にして、「Look At The Sky」を歌うことになったいきさつを話し始めた。

その話の中でオリーが軽く「ウーエーオー」と口ずさんだ途端、日本人の若いファンたちが一斉に大きな声で「♪ムーウーイーテー アールコーオウオウオウ」と歌い始めた。

日本人なら誰でも歌える大切な歌だということを目の当たりにしたオリーは、驚くと同時に一気に緊張したのが観客にもわかった。

オリーがその夜に初めて歌った「Look At The Sky」は、21世紀にもうひとつまた「上を向いて歩こう」の新しい歴史をきざむことになるのかもしれない。

(photo by Yoshika Horita)

<関連コラム>
世界で一番有名な「ジャパニーズ・ソング」はこうして生まれた! 前編
世界で一番有名な「ジャパニーズ・ソング」はこうして生まれた! 後編
ホウキがギターに早変わり、ジミとエルヴィス、坂本九と忌野清志郎 
アメリカで日本語のまま大ヒットした「上を向いて歩こう」に付けられた、「SUKIYAKI 」と「SUKIYAKA 」

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[Extra便]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ