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時空を超えて鳴り続ける土着的なビートに圧倒される音楽映画の傑作『盆唄』

2019.03.11

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映画『盆唄』は、福島県双葉郡双葉町(ふたばまち)に伝わる伝統芸能の「双葉盆唄」と、福島県からハワイに移住したの日系人の子孫によって、100年以上も前から継承されている「FUKUSHIMA ONDO(フクシマ・オンド)」が、2011年に起こった福島原発事故を契機に、人と音楽によって結びついていく様を追ったドキュメンタリーである。

最初から最後まで通奏低音のように鳴り続ける和太鼓のたたき出すビートとグルーヴが圧巻で、とにもかくにも音楽の力で気持ちが良くなる映画だ。
そして土着的な芸能の本質に迫る音楽映画としても、素晴らしい出来栄えの傑作だ。


この映画の生みの親となったのは、ハワイの日系コミュニティで行われる「盆踊り=ボンダンス」に魅せられた写真家の岩根愛だ。
1991年にカリフォルニア州ペトリアハイスクールに留学した岩根は、写真家として独立した1996年以降、世界各地の多様なコミュニテイにおもむいて、フィールド・ワークとして撮影を続けてきた。

そして近年はハワイにおける日系文化に注視していたのだが、100年以上も前に日系移民の1世たちが持ち込んだ櫓を、今でも使い続けていることなどへの関心から、ボンダンスのなかでも人気が高い「フクシマオンド」のルーツが、福島県浜通り地方に伝わる「相馬盆踊唄」にあると知った。

ハワイには全島で約90カ所のお寺が存在していて、夏の間は毎週末にボンダンスが順繰りに開催されているという。

岩根が「ボンダンス」について語った言葉を引用する。

マウイ島のかつて福島村とも呼ばれた地域(福島からハワイに渡った移民の子孫が多く住む)にあるパイア満徳寺で、1914年にハワイのお寺の中で最初にボンダンスが始まったとされています。
私は3・11があった2011年の夏、ハワイでフクシマオンドを続けるマウイ太鼓というグループの存在を知って会いに行ったのですが、そのときに彼らが震災の影響で盆踊りができない福島をはじめとした東北の人たちを招いていたんです。
その中の双葉郡の中高生30人くらいが、フクシマオンドが流れると「あ、これ知ってる!」といきなり立ち上がって踊りだした。その光景に強く衝撃を受けたんです。同じ歌が、遠く離れたハワイと福島で今も受け継がれていて、両地の人々が一緒に踊ることができるんだと。


岩根は翌年になって、今度は逆にマウイ太鼓の人たちに福島に来てもらって、盆踊りの太鼓グループと交流するツアーを企画した。

そうした交流が重ねて出会うことになったのが、生まれ育った双葉町を追われてばらばらになり、各々が避難先での生活を余儀なくされている人たちだった。
彼らは先祖代々によって受け継いできた伝統ある「双葉盆唄」が、このままでは消滅するという危機に直面していた。

町民が総出で盛大に催してきた盆踊りという、年に一度の祭りが奪われてしまったことによって、震災から一度も披露されることがないまま、4年目を迎えることになっていたのだ。
そして太鼓の名手である横山久勝さんを中心にしたメンバーたちが、「双葉盆唄」を復活させようとの思いで練習を始める。

かつて町民総出で盛大に催されていた盆踊りもなくなり、存続の危機に瀕した「双葉盆唄」を後世に残したいと、双葉を離れて暮らす太鼓と笛、唄と踊りの名手たちが結集してきた。

やがて彼らは100年以上も前に海を渡った日本人移民の子孫たちが、今でも盆踊り文化を受け継いでいるハワイのマウイ島に旅立つ
日系人の太鼓グループに「双葉盆唄」の稽古をつけることで、ハワイの地に継承してもらおうと思ったからである。

横山さんは映画のなかで、ハワイの若いメンバーたちに向かってこんなふうに語っていた。

「私たちの双葉町は地震、津波、原子力発電所の事故で、人が帰れない帰還困難地区になっています。私たちが生きている間に帰れるかはわかりません。子や孫の代になって双葉が復活したときには、これが本物の双葉盆唄なんだと教えて欲しい」


その言葉には自分たちが生きている間は無理でも、いつか双葉町に人が住めるようになった後で、故郷に戻った人たちに「双葉盆唄」を教えてもらいたいという願いが込められていた。

映画化を岩根から依頼された中江裕司監督は、横山さんたちがそこまで覚悟していることを知って、映画として完成させていくことを決意したという。
そして自分なりの表現を求めて、福島の浜通り地方に住んでいた先祖たちが、実は江戸時代後期の大飢饉(ききん)後に北陸などから移り住んだ農民だったという歴史を、アニメーションによって描いてドキュメントのなかにインサートしていった。

中江監督ならではの“希望”の映画となった『盆唄』は、2018年の秋に東京国際映画祭で各国の映画監督から絶賛された。
最後に中江監督からのメッセージを紹介したい。

故郷を離れるとき、人は唄をたずさえてゆく。
唄は新たな土地で根付き花ひらく。
福島からハワイへ、北陸から双葉へ。
二百年という長い時間の中で希望がみえてくる。
唄をたずさえて、希望のかなたへ。
皆さん、いっしょに双葉盆唄を!




映画は2月15日(金)より東京のテアトル新宿ほか全国でも、順次ロードショー公開中です。


(注)文中の岩根愛氏の発言は「サイゾーpremium ハワイのボンダンスとフクシマオンドの故郷【後編】」からの引用です。https://www.premiumcyzo.com/modules/member/2017/07/post_7733/

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