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漣健児の偉業〜日本語ポップスの源流を作った男、その訳詞スタイルとは!?

2015.10.18

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1960年代、当時のアメリカンポップスをリアルタイムで400曲以上も日本語化した男がいた。
彼の名は漣健児。
日本のニューミュージック界を牽引してきたミュージシャンの一人、山下達郎が彼についてある取材で語った言葉が実に的を射ている。

「洋楽のメロディーに日本語の詞を乗せるという、我々が今も変わらずやっていることは、漣健児と岩谷時子、このお二方が書かれた詞の中で、ほとんどすべてが完結していたといっても過言じゃないんですよ。」

「例えばロックンロールなら漣さん、シャンソンだったら岩谷さん、といった感じで、ほとんどお二人の独壇場でしょう。その後のロックやフォークにまで至る、僕たちの言語感覚は、当時のカヴァー・ポップスの中から生まれたんだと思います。」


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60年初頭。自宅にレコード、もしくはオープンリールのテープを持ち帰ると、掘り炬燵のある四畳半の部屋にこもるのが漣健児の日課だった。
テープレコーダー、トイピアノ、そして電蓄(電気蓄音機)が、彼の“三種の神器”となっていた。
アメリカでヒットしていなくても日本でヒットする楽曲を見つけ出し、日本語タイトルをつけ、原詞の意味をつかんだ上で、歌手をイメージしながら一気に書く。
それが彼のスタイルだった。
彼は、自身の訳詞スタイルについてこう語っている。

「まず原曲のストーリーに合わせて、タイトルを5通りぐらい挙げるんです。そして、それは一旦置いておいて、歌詞を書き始める。少しでも深みのある詞を書こうと思うなら、まずタイトルから書くのが第一。タイトルの候補がいくつか出たら、それに合わせてシナリオボードを書く。音を探るのは、それからですよ。常にオーダーをいただいた方のイメージやキャラクターを、詞の内容に反映させていましたね。もう、原詞はこっちに置いといて。」





そんな彼が、タイトルの重要性について語っている言葉がある。

「タイトルを決めるのは得意だったんで、よく頼まれましたが<悲しき>とかつけておけば買ってくれる方も、その題がついている歌は自分達の守備範囲と思ってくれた。<悲しき><思い出の><涙の>とか、きまった言葉が五つ六つあって、それでとりあえず収まる幸せな時代でした(笑)」

事実、<思い出の>とタイトルがついたレコードは、それだけでレコード店から3000枚のオーダーがあったという。
本来リズムやビートに乗りにくいとされ、その後、70年代にも“日本語ロック論争”などの形で論議の対象となっていく日本語ポップス、ロックンロールは、この時代に漣健児のペンによって産声をあげたのだ。

漣 健児(さざなみけんじ)
1931年2月4日東京生まれの訳詞家(作詞家)。
本名、草野昌一。株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント前代表取締役会長。1951年9月、早稲田大学第一商学部在学中に父親の経営する新興楽譜出版社に入社し『ミュージック・ライフ』を復刊させ、編集長をつとめた。
1957年、新田宣夫(にったのぶお)の名前で「赤鼻のトナカイ」を訳詞したのを皮切りに、自社出版物のソング・フォリオ用に訳詞を始める。
1960年10月、坂本九が歌う「ステキなタイミング」(ダニー飯田とパラダイス・キング)の訳詞を漣健児で発表。
以後、当時のアメリカンポップスをリアルタイムで400曲以上を日本語化した。
2005年6月6日、膵臓癌のため文京区内の病院で逝去(享年74)。
実弟の草野浩二は元東芝EMIの名物ディレクター。
次男の草野夏矢は現シンコーミュージック・エンタテイメント社長。

【代表作品】
「ステキなタイミング」ダニー飯田とパラダイス・キング※ボーカル・坂本九(ジミー・ジョーンズ)
「ルイジアナ・ママ」飯田久彦(ジーン・ビットニー)
「悲しき街角」飯田久彦(デル・シャノン)
「子供じゃないの」弘田三枝子(ヘレン・シャピロ)
「ヴァケーション」弘田三枝子(コニー・フランシス)
「可愛いベイビー」中尾ミエ(コニー・フランシス)
「大人になりたい」伊東ゆかり(コニー・フランシス)
「私のベイビー」弘田三枝子(ロネッツ)
「好きさ好きさ好きさ」ザ・カーナビーツ(ゾンビーズ)
「ミッキーマウス・マーチ」東京荒川少年少女合唱団(ディズニー)


<漣健児 オフィシャルサイト>
http://www.shinko-music.co.jp/sazanami/

■参考文献『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』(2014/集英社)


『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

(2014/集英社)
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