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【インタビュー】T字路s──誰しもが抱える「ブルース」を揺り起こす、激しくも優しい人生の応援歌

2019.03.06

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 ボーカル/ギターの伊東妙子とベーシスト篠田智仁により、2010年に結成されたT字路s(てぃーじろす)。彼らは全国各地を地道に回って、熱いライブを繰り広げてきた。激しく心を揺さぶっては、心の奥底に眠っていた様々な感情を目覚めさせていく、伊東の歌と声。世知辛いこの時代、奥歯を食いしばりながら、這いつくばうように今を生き抜く人々に向けた人生の応援歌は、クロマニヨンズの甲本ヒロト、俳優の松重豊、お笑い芸人の千原ジュニアといった、個性あふれる面々をも虜にしている。そんなT字路sが、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『PIT VIPER BLUES』を完成させた。TAP the POPでもおなじみの彼らに、本サイト初となるインタビューを敢行! 充実の新作について、じっくり語ってもらった。


──2年ぶりとなるニュー・アルバム『PIT VIPER BLUES』、素晴らしく充実した作品になりましたね。これまでのT字路sの歌にあった密度は変わらず、だけど音楽的なバリエーションが鮮やかになっていて。

伊東 うれしい!

篠田 がんばりました(笑)。前作のリリースの後、ツアーやライヴをたくさんやったんだけど、二人でライブすることがほとんどで。だから次のアルバムを録音する時には、二人だけの演奏で完結するものを作ろうと思っていたんです。

──二人だけで成立する曲というコンセプトが根本にありながらも、音楽表現の幅が広がってるのは大きな変化ですね。

伊東 そう、むしろ今までより広がった感じはあるかも。

篠田 これまでのアルバムは、ゲストに参加してくれるミュージシャンありきでアレンジを決めていったところもあったから。

伊東 だけど、二人だと思いついた瞬間にパッとやって、これはアリだね、ナシだねって、どんどん試していける。そのきっかけの1つになったのは、昨年「買い物ブギ」のカヴァー(オリジナルは笠置シヅ子「買物ブギー」)を録音したこと。西武・そごうのキャンペーン・ソングとして作ることになったんですけど、この時は自宅スタジオで二人だけで作ったんです。二人でアイデアを出し合いながら、たくさん試していって。それが、すごく面白くて充実していてね。


篠田 そうした経験があったから、今回のアルバム制作でも、デモの段階でやれることを試しまくって、ベストなアレンジだって思えるところまでとことん詰めて。レコーディングの段階で、それを生演奏で再現するっていうスタイルにしてみたんです。二人になったら、逆に自由になった感じがするね。

──「レモンサワー」はカリプソ調、「孤独と自由」はモータウンを意識した楽曲で、スタイルとしても新鮮な印象を受けました。

篠田 「レモンサワー」は、最初ブルースっぽかったけど、カリプソにしたら合うんじゃないかなって。せっかく酒の歌を歌ってるんだし、カラッとした印象にしたくて。

伊東 でも、私はカリプソの曲とかやったことがないから。「カリプソなんて、どうやってギター弾いていいかわかんないよ!」って(笑)。

篠田 まあウチらがやるんだから、本物のカリプソをやる必要もないしね。

伊東 「孤独と自由」は、篠田から「古いモータウンっぽくやってみない?」と提案がああって。自分の中に刷り込まれてる、モータウンの素敵な曲を思い浮かべながら、曲を作っていきました。

篠田 ウチらはブルースって言われることが多かったし、そう言われるのは全然嫌じゃないんだけど、音楽的にそこまでブルースなのかな?って。ジャンルとしてのブルースをやってるという感覚もあまりなかったから、もうちょっと音楽的な幅を広げてみたいなっていう意識は、漠然とありましたね。

──今作は基本的には二人だけで録音してる曲が大半ですが、レゲエ・トランぺッター=エディ・タンタン・ソーントンなど、少数精鋭のゲストも参加していて。とくにハンバート ハンバート佐藤良成さんのサポートワークが、実にツボを心得たプレイで素晴らしいですね。

篠田 フィドル、バンジョー、ピアノと、全部違う楽器で入ってもらって。今回、ピアノだったらピアニストみたく、専門のミュージシャンに演奏してもらいたくなくて。あまり弾きすぎない演奏で入ってほしかった。良成は、自分でも二人組のユニットをやってるから、歌を前面に立たせながら、どこまでバックの楽器が出ていいかとか、そういうニュアンスが俺らと共通してあるし、さらに一歩進んだ提案もしてくれました。


──今回のアルバムは音楽的な表現域は広がりながらも、T字路sならではの“生活に根ざしたブルース観”というものは、より色濃く描かれている印象を受けました。リード曲にもなった「暮らしのなかで」なんかは、まさに象徴的な楽曲の一つで。

篠田 今までの歌詞のテーマが、大きな意味で人生そのものといった感じだったのが、今回は日常生活に根ざした目線になったというか。日々の暮らしから生まれる嘆きみたいなものを歌ってる。

伊東 テーマがより絞られてきた感じはありますね。ある意味、全部の曲がそうなんだけど、自分が日々暮らしていく中で、迷ったり、落ち込んだり、思いつめたり……だけど、そこから立ち上がりたいと強く想う気持ちがあって。

篠田 日々過ごしてる中で、しまい込んでる熱い気持ちがあるだろ? っていう。

伊東 そうだね。

篠田 「暮らしのなかで」のほかにも、「ふりこのように」や「孤独と自由」もそうなんだけど、妙ちゃんの歌詞は、対極にある感情を行ったり来たりするものが多いかも。

伊東 「逃避行」という曲の歌詞も、逃げたい時ってあるよねって言いながら、結局逃げたのか逃げてないのかわからずじまいで終わってるというか。そういう日々じゃないですか? みんな誰しも、自問自答しながら生きてるというか。

──そこで普通は流されるままに生活してしまいがちだけど、ガッと踏みこらえて、立ち止まってもいいから自分自身を見つめ直す。そういう瞬間を忘れちゃいけないという。

篠田 その視点に気付かせてくれて、代弁してくれるのが、妙ちゃんの歌なんだと思う。

──“渡りきることのない 泪橋 いざ振り向かず進め”というフレーズが出てくる「泪橋」なんかも、まさにそういう歌ですよね。「泪橋」は、T字路sが結成当初から歌い続けている代表曲ですが、今回のアルバムにはあらためてレコーディングしたヴァージョンが収録されています。

伊東 この曲はT字路sをやる前に組んでたバンドの時に作った曲なんですけど、以前に録音した時よりキーが少し下がってて、歌い方も変わってきた。10年以上歌い続けてるけど、この曲だけはなぜか飽きない。詞の内容も、自分の中でまったく古びてこないんです。


──それぐらい、T字路sにとって「泪橋」という曲は特別な存在だったと。

篠田 気持ちが入りすぎちゃって、いつまで経っても冷静に演奏できないんだよね。

伊東 うわーーーっ!って感じでやってるから。

篠田 そんな妙ちゃんの感情と同期しちゃって、ベースを弾いてるだけなのに、この曲を演奏すると息が上がるぐらいに、気持ちが入っちゃう。毎回そんな感じだから、いつまでも完成しないというか。ここまでの感情になる曲は、他にないですね。

伊東 長く歌ってきた間に、詞も一部変えたりとちょっとずつ変化してきていて。完成しないからこそ、今の「泪橋」を閉じ込めておきたかったんです。今回のアルバムは、全部の曲がアナログテープの一発録りなので、ライブと同じような感覚で演奏してるんだけど、とくにこの「泪橋」は、目の前にお客さんがいるつもりで、120%全力疾走で演奏しました。

篠田 ただ、俺らの代表曲であると同時に、新しいアルバムなのに「泪橋」がメインになったら嫌だなって気持ちもあって。この曲を超えるぐらいの曲を作らないと、昔の自分たちに負けることになるから。そういう意味でも「泪橋」を、このアルバムに入れることはものすごいプレッシャーでもありましたね。

──その命題は、しっかりクリアしてると思いますよ。個人的に衝撃を受けたのが、2曲目に収められた「はじまりの物語」。“ここから 時計が回りはじめる/ここから 世界が動きはじめる/クソみたいな日々を 抜け出して/もう一度 生まれて 歩きはじめる”とリフレインするシャウトに、ガツンと打ちのめされました。

伊東 実は早い段階から曲は出来てたんですけど、今回のアルバムにはしっくり来ないように感じて、何回も後回しにしてて。歌詞についても、自分としてはストレートすぎたかなとも思ったんだけどね。だけど、実際にレコーディングしてみたら、ものすごく気持ちが入っちゃった。

篠田 久々に妙ちゃんが吠えてる感じの歌が聴けてうれしかったよね。この感覚は、最近の曲ではなかった。

──たしかに、まさに「咆哮」と呼ぶのがふさわしいような楽曲は、T字路sの近年のオリジナル曲には少なかったし、「はじまりの物語」は「泪橋」と並ぶぐらいに強いパワーを持った曲だと思います。

篠田 吠えるだけが妙ちゃんの魅力じゃないことはわかってるし、自分たちも、あえてそこから離れようとした時期もあったから。歌い方のバラエティを広げたかったというかね。

伊東 たしかに葛藤はありましたね。パワー・ボーカルだけが売りの人って思われたくないって思いもあって。

篠田 そういう葛藤があった中で、それでも「はじまりの物語」みたいな曲が自然に生まれて。こういう部分が俺らの持ち味のひとつだったし、かましてやるぜ!って気持ちでやってた初心を、もう一度思い出させてくれる曲になりました。俺らも、まだまだロックできるじゃん!ってね。




T字路s『PIT VIPER BLUES』

T字路s
『PIT VIPER BLUES』

(felicity)


PIT VIPER BLUES Release Tour
3月28日(木)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
3月29日(金)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
4月4日(木)宮城・仙台 MACANA
4月5日(金)北海道・札幌 BESSIE HALL
4月11日(木)福岡・福岡 the voodoo lounge
4月12日(金)広島・広島 CLUB QUATTRO
4月26日(金)東京・恵比寿 LIQUIDROOM


other live schedule
NEO INSIDE BOUND GIG
3月9日(土)東京・新宿 LOFT(w/柳家睦 & THE RATBONES、ANTAGONISTA MILLION STEPS、OLEDICKFOGGY、TURTLE ISLAND 他)
結いのおと
4月20日(土)@茨城・結城市 称名寺 他(w/Caravan、U-zhaan×環ROY×鎮座dopeness、mabanua 他)


official website
http://tjiros.net/

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