TAP the SCENE

キャデラック・レコード〜ビヨンセも出演した伝説のレーベル“CHESS”の物語

2016.10.15

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レコード会社を描いた映画はこれまで数々作られてきたが、中でもメンフィスのサンやデトロイトのモータウン、NYのアトランティックといったインディペンデントと呼ばれる独立レーベルの物語は実に見応えがある。そしてシカゴの名門チェスのストーリーも例外ではない。

映画『キャデラック・レコード』(CADILLAC RECORDS/2008)には、レナード・チェス、マディ・ウォーターズ、リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、エタ・ジェイムズの6人の主要人物が登場する。彼らを語るのは、チェスのソングライター/プロデューサーだったウィリー・ディクソン。1950年代〜60年代におけるブルース、R&B、ロックンロールの伝説的な実話が綴られていくが、その一つ一つが音楽ファンには強烈にたまらない。

1940年代前半。ミシシッピの貧しい農民だったマディ・ウォーターズは、図書館用に自分の歌とギターを録音したことをきっかけに“自分を発見”。大都市シカゴへ移ってブルース音楽に夢を賭ける。街の騒音や人々のざわめきに音が消されないように、アコースティックからエレクトリックにギターを持ち替えると、彼のダウンホームな感覚を持った音楽は都会の黒人たちを魅了し始める。

それを世に送り出したのはレナード・チェス。ポーランド移民で貧しい暮らしをしていたが黒人音楽に取り憑かれ、ビジネスの可能性を見出して1947年にレコード会社アリストクラットを設立する(50年にチェスと改名)。南部ミシシッピに息づくデルタ・ブルースが、マディとチェスの出逢いを通じて、北部の大都市でバンド・ブルースへと昇華した。

他にもアンプリファイド・ハープ(ハーモニカをアンプに通して音を分厚く強くするスタイル)を発明したリトル・ウォルター、マディと同じくミシシッピから移住してきた独特の潰れた声でオオカミのように唸るハウリン・ウルフが続いてスターとなる。レナードは成功の証として、彼らに一台ずつキャデラックの高級車をプレゼントしていく。チェスのブルースマンは50年代の黒人たちの夢の象徴だった。

50年代半ば。チャック・ベリーをチェスに紹介したのはマディだった。ロックンロールの旋風とティーンエイジャーの台頭によって、ブルースマン以上の華やかな成功を手にするチャックだったが、人気絶頂時に未成年の少女を連れ回した罪で投獄されてしまう。一方、リトルは酒と麻薬に溺れ始め、マディは人気が下火になって金の心配がつきまとう。レナードはそれでも彼らを見捨てたりはしない。マディは「ブルースっていうのは不条理がテーマなんだ」と言った。

59年。エタ・ジェイムズがレナードの前に現れる。遊び人だった白人の父親と商売女だった黒人の母親の間に生まれたという素性に、いつも苛立ったり強がったりして混乱の中に生きる女であり歌い手。彼女もすぐさまスターになるものの、過去に苦しむあまり麻薬に溺れて死にそうになる。
レナードはエタに言う。「悲しみに自分を乗っ取られるな。マディはそれを歌に託して心から追い出す。リトルは常に持ち歩き、酒と麻薬を食わしてる」。物語はリトル・ウォルターの悲劇的な死(マディが泣き崩れる)、チェス・レコードから身を引いた矢先のレナードの死、そして英国で人気が復活するマディの姿で閉じられる。

この作品は観ること自体が、あの奇跡の時代の音楽体験。エピソードも豊富で、マディとウルフの反目(ギタリスト引き抜き事件)やDJアラン・フリードへの賄賂、チャック・ベリーの曲を盗作したビーチ・ボーイズやチェスのスタジオを訪れてマディに敬意を表すローリング・ストーンズなどが印象的(ちなみに初期ストーンズには「2120サウス・ミシガン・アヴェニュー」という曲があるが、これはチェスのスタジオの住所だ)。

ビヨンセがエタ・ジェイムズを演じて話題になった。アーリーソウル・バラードの傑作「At Last」「All i Could Do Was Cry」「I’d Rather Go Blind」などを見事に歌い上げるシーンも見どころ。

やっと 愛し合える人に出会えた
孤独な日々が終わったの
人生はまるで歌のよう……


マディ・ウォーターズとリトル・ウォルターの伝説的な出逢いシーン


ビヨンセ(エタ・ジェイムズ)が「At Last」を歌うシーン

♪ At Last(エタ・ジェイムズ)


『キャデラック・レコード』

『キャデラック・レコード』


*日本公開時チラシ
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*このコラムは2015年2月4日と10月16日(レナード・チェスの命日)に公開されました。

*参考/『キャデラック・レコード』DVD特典映像

(こちらもオススメです)
売れ始めても英雄マディ・ウォーターズの使いっ走りをやめなかったピーター・ウルフ

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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