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細野晴臣の「ろっかばいまいべいびい」は初めから懐かしいスタンダードのようだった

2015.06.12

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1973年5月25日に発売された細野晴臣のファースト・ソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』で、「ろっかばいまいべいびい」は1曲目にアコースティック・ギターの弾き語りで収録されている。
だがこの歌はこの世に登場した時から、すでに懐かしいスタンダードのようであった。

その頃の細野はヴァン・ダイク・パークスを徹底的に聴きこんでいくうちに、 60’sや50’sを通り越して、幼い子供の頃にSP盤で聴いた原体験、1930年代に作られたアメリカのポピュラー・ソングやハリウッドの映画音楽にはまっていた。

ノスタルジックな世界を思い出していくうちに、自然に「ろっかばいまいべいびい」が誕生してきたと言える。

これは細野が一人で4チャンネル2トラックのテープレコーダーに録音したデモテープを、エンジニアの吉野金次がそのままミックスして完成させたたものだ。
どうしてデモテープのまま収録したのかについて、細野は最近の著作で答えにも通じるポイントを語っている。(注)

デモテープの良さっていうか、初期衝動っていうかね。そういうものは大事で、忘れたくないと思っているよ。
デモっていうのは自分のためのメモなので、そこにエッセンスが詰まっている。
そこにあるのは形じゃなくて、エッセンス。
それを音にすることがやりたかったんだ。


それから2年が経って西岡恭蔵がカヴァーしたことによって、この歌はさらに広く知られるようになった。

西岡恭蔵ろっかばいまいべいびい

西岡の3枚目のアルバム『ろっかばいまいべいびい』は、A面の5曲を鈴木茂とハックルバックがメインで演奏している。さらにはギターの石田長生、パーカッションの浜口茂外也、ヴォーカルの金子マリらがファンキーでタイトなバンド・サウンドを聴かせている。

ところがB面になると雰囲気が一変し、プロデューサーの細野晴臣がギターやベース、マンドリン、ピアノとほとんどの楽器を一人で弾いていた。
そのこともあってアコースティックでフォーキーなサウンドは、同じ年に発表された細野のアルバム『トロピカル・ダンディー(Tropical Dandy)』のB面にも共通する、懐かしい空気感が漂っていた。

朴訥としてぬくもりが感じさせる西岡のヴォーカルは、細野のオリジナルと比べても甲乙つけがたいヴァージョンとなった。


細野と松本隆の勧めもあってシンガー・ソングライターとなった吉田美奈子は、1973年9月に細野のプロデュースによるファースト・アルバム『扉の冬』を発表した。

その後、荒井由実のプロデュースで成功した村井邦彦が率いるアルファ&アソシエイツと契約し、1975年にはRCA移籍第一弾となったアルバム『MINAKO』で新たな道を歩み出す。

吉田美奈子

荒井由実の作詞による「パラダイスへ」や「チャイニーズ・スープ」のカヴァー、大滝詠一作による「わたし」、アレンジャーを務めたキーボーディスト佐藤博の「レインボー・シー・ライン」等、アルバムは自作曲の他にもシティ・ポップスの先駆的な楽曲が揃っていた。

そして最後を締めくくっていたのは「ろっかばいまいべいびい」だった。


「ろっかばいまいべいびい」はオリジナル・ソングの発表からわずか3年で、早くもスタンダード・ソングであるかのように認知されていったのだ。

(注)引用元・『細野晴臣 とまっていた時計がまたうごきはじめた』細野晴臣 著 鈴木惣一朗 聞き手


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