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追悼・船村徹〜すぐれた歌詞の背後には必ず物語が潜んでいる~

2017.02.17

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1961年の夏、近代生活の必需品という触れ込みで、旭化成から「サランラップ」が売り出された。厚さ10ミクロンのラップは空気や水をほとんど通さないため、冷蔵庫が普及し始めた家庭の必需品となった。

アメリカで誕生したラップの急速な普及で、日本の台所はますますアメリカ化し、呼び名もキッチンに変わっていく。
前の年に発売されたインスタントコーヒーに続いて、粉末インスタントクリーム「クリープ」が森永製菓から発売になった。

日本人の生活がアメリカ化の決定打となったのは10月、それまで米軍用に限られて輸入物しかなかったコカコーラが、商品として巷に出回るようになったことだ。
貿易自由化のおかげで原液の輸入が認められたことから、国内製造が始まって普通の日本人がコカ・コーラを飲めるようになった。

コカ・コーラ

その年は音楽シーンでもアメリカ化が進み、ロカビリーブームの延長で流行していたアメリカン・ポップスが、ティーンエージャーたちを夢中にさせていた。

渡辺マリの「東京ドドンパ娘」が春に大ヒットした。
坂本九の「上を向いて歩こう」が秋にブレイクした。

大人向けでは夏にクレイジー・キャッツの「スーダラ節」が出て一世を風靡したし、西田佐知子の「コーヒー・ルンバ」や越路吹雪の「ラストダンスは私に」もヒットした。

アメリカナイズされた楽曲が大流行し、誰も彼もが横文字に惹かれていく時代だった。
そんな流れに抗うかのように作られたのが浪曲の第一人者、村田英雄が歌った「王将」である。
作詞は大ベテランの西條八十、作曲は新進気鋭の船村徹だった。

パリへの留学経験があった西條八十は当時69歳、早稲田大学の教授としてフランス文学を教えていた詩人だ。その一方では「東京行進曲」「サーカスの唄」「越後獅子の唄」「芸者ワルツ」など、数多くの流行歌を書いた稀代のヒットメーカーでもあった。

しかしコロムビアから「王将」の話を持ち込まれた時、「えっ?今どきこういうレコードを誰が買うんですかね」」と驚いたそうだ。
作曲を頼まれた船村徹は持ち前の反骨精神から、気持ちが高ぶったと語っている。

私のほうはへそまがりというか、私独自の理屈で動いているから、「王将」の企画にはすぐ賛同した。
たとえば、ここに百円落ちていると、それを十人が拾えば一人十円にしかならないのである。
それが音楽業界の流れだった。
ひとつヒット生まれると、そこに皆が群がっていく。
だから、皆が東に向かったら、一人ぐらいは西を向くやつがいたほうがいい。
その代わり、百円拾えば全額自分一人のものになる。そういう理屈であった。


ただし、船村徹はただのへそまがりではなかった。
東京音楽学校の作曲科にいた頃から、日本人である限りはベートーベン、シューベルト、モーツァルト、バッハといった大作曲家たちが残し作品を超えるのは無理だと思っていた。
そして、自分たちにとってオリジナルとは何なのかを考えてきたのだ。

頑固な勝負師を描く「王将」の世界ならば、民謡や浪花節、都々逸で育ってきた自分にも書けると、船村徹は自信があった。
やがて西條八十が書いた歌詞が届いた。

王将 作詞:西條八十 作曲:船村徹

吹けば飛ぶよな 将棋の駒に
賭けた命を 笑わば笑え
うまれ浪花の 八百八橋
月も知ってる 俺らの意気地

あの手この手の 思案を胸に
やぶれ長屋で 今年も暮れた
愚痴も言わずに 女房の小春
つくる笑顔が いじらしい


船村徹が「吹けば飛ぶよな演歌の節に/賭けた命を笑わば笑え」と口にしてみたら、自然にメロディーが出てきた。
歌った村田自身もまた、「吹けば飛ぶよな演歌の道に/賭けた命を笑わば笑え」という気持ちだった。

勝負師の物語を背景にした歌が、その枠を超えて多くの日本人を励ます唄になった。それは最初の一行に、聴き手が自分を重ね合わせられるという、絶妙の「つかみ」があったからだ。

「王将」は戦後初のミリオンセラーとなった。

王将

この歌を書いた後、船村徹はしばらく日本を離れて、ヨーロッパに暮らしている。
そしてパリに滞在しているとき、渡仏してきた西條八十と一緒になる機会があった。

「あの歌のヒットは船村くんのおかげだよ、ありがとう」と言われた船村徹は、歌のヒットそのものよりも嬉しいと感じたという。

西條八十はそのとき、「愚痴も言わずに 女房の小春 つくる笑顔が いじらしい」という箇所を、数年前に亡くなってしまった夫人を想い浮かべて書いたと述べた。

「私の女房の鎮魂歌なんですよ」


すぐれた歌詞の背後には必ず、作者の生きてきた生活から生まれた物語が潜んでいる。


本コラムは2016年8月19日に公開されました。

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