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レナード・コーエンが尊敬するハンク・ウィリアムスから歌い継いだ愛と孤独

2016.11.15

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シンガー・ソングライター、そして詩人としての顔を持つレナード・コーエン。
彼が生み出した楽曲の数々は、ボブ・ディランやU2、R.E.M.などをはじめとして、数え切れないほど多くのアーティストにカバーされている。
中でも代表曲の1つとなった「ハレルヤ」は1994年にジェフ・バックリィにカバーされて大ヒットとなった。



コーエンが2008年にロックの殿堂入りを果たしたときには、ルー・リードによってこのように紹介された。

「最も崇高かつ影響力の大きなレベルにいるソングライターのひとりである」


そんなレナード・コーエンが、もっとも尊敬する人物の一人として挙げているのが、カントリー音楽のレジェンド、ハンク・ウィリアムスだ。
1953年に29歳の若さで亡くなったが、その短い生涯で11枚ものシングルをチャートの1位に送り込み、ロックンロールの成り立ちにも多大な影響を与えたことから「ロックの父」とも称されている。

コーエンは1988年に発表した「タワー・オブ・ソング」という歌で、そのハンク・ウィリアムスを登場させている。


ハンク・ウィリアムスに問いかけた
そこはどのくらい孤独なのかと
答えは未だに返ってこない
だが一晩中彼の咳が聞こえてくるんだ
100階も上の階から
歌の塔の中で

ハンク・ウィリアムスのいる場所はおそらく“歌の塔”の一番上、一方のレナード・コーエンがいる場所はそこよりもはるか下の階だという。
そのことについて、コーエンは決して謙遜や卑下ではないと説明している。

「私は大衆音楽の歴史において、ハンク・ウィリアムスがどの場所に立っているかを理解している。
『偽りの心』のような崇高で伝統の宿る歌の前では、私などマイナーなソングライターに過ぎないのだと感じてしまう」




コーエンはハンク・ウィリアムスの音楽との出会いについて、こんな言葉を残している。

「『アイム・ソー・ロンサム・クライ』を聴いた瞬間に、私はのめり込んだんだ」


「アイム・ソー・ロンサム・クライ」は1949年にハンクが書いた曲で、これまで多くのミュージシャンにカバーされている。
エルヴィス・プレスリーはこの歌を歌うときに、「自分がこれまで聴いてきた中でおそらくもっとも悲しい曲だ」と紹介した。


孤独な夜鷹の音が聞こえる
青ざめた音で飛んでいる
深夜列車が低い音ですすり泣く
泣きたくなるほどに淋しい

主人公の耳にはあらゆる音が悲しみを帯びて聞こえてくる。
そして最後にはその音すらも消えてしまう。


流れ星が音もなく
紫の空を照らし出す
あなたはどこにいるんだろう
泣きたくなるほどに淋しい

ハンク・ウィリアムスの歌で度々描かれる愛と孤独。
それはコーエンが生涯をかけて歌い続けたテーマでもある。



ところで「タワー・オブ・ソング」では、なぜハンク・ウィリアムスに孤独について問いかけたのだろうか。
歌は年老いた自分について語るところから始まる。


友人は次々とこの世を去り
髪の色も今や灰色だ

死を、そして残される者の孤独を、現実のものとして感じ始めたコーエンが答えを求めた人物こそ、ハンク・ウィリアムスだったのだ。
しかし、はるか上の階にいるハンクは何も答えてくれない。

人生の短さを、そしていつか自分も死ぬのだと理解したコーエンは、歌の終盤で別れの言葉を口にする。
いつ戻ってくるかは分からない、自分もあの塔に行くのだという。


私がいなくなってからも聞こえるだろう、ベイビー
優しく語りかけているのだから
歌の塔の窓から

この歌が発表されてから28年が過ぎた2016年、レナード・コーエンはこの世を去り、別れは現実のものとなってしまった。
しかし、コーエンは今日も歌い続けている。
ハンク・ウィリアムスと同じ塔の中で。





Leonard Cohen『I’m Your Man』
「タワー・オブ・ソング」が収録された1988年の作品(Sony)


名前『Anthology』
(Not Now UK)

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