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Tuesday Night Music Club〜シェリル・クロウがデビューアルバムでグラミー三冠を受賞した日〜

2017.03.01

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今やアメリカのポップス&カントリーシーンにおいて、名実共にトップアーティストとなったシェリル・クロウ。
彼女といえば、いわゆる“遅咲きのデビュー”で登場した人としても有名である。
1993年の8月、彼女が31歳のときに満を持して発表した1stアルバムは、約一年をかけてじわじわとチャートを昇り始め…最終的には90年代のアメリカとイギリスにおいて700万枚を超えるセールスを記録する。
リードシングル「All I Wanna Do」は、全米ビルボードチャートで最高2位まで上昇する大ヒットとなった。


──それは1995年3月1日の出来事だった。
その日、彼女は第37回グラミー賞で「最優秀レコード賞」「最優秀新人賞」「最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞」の3冠を受賞した。
この“快挙”ともいえる受賞を彼女にもたらしたアルバム『Tuesday Night Music Club』とは、一体どんな経緯で製作されたものだったのだろう?
1stアルバムからいきなりグラミー三冠を手にした彼女は、一体どんな経歴を持つミュージシャンだったのだろう?

1962年2月11日、彼女はミズーリ州の南東部にあるケネットという街で生まれた。
父はトランペット、母はピアノをジャズバンドで演奏していたという音楽一家で育つ。
5歳からピアノのレッスンを受け、13歳で最初の曲を作ったという。
しかし、当時は“音楽ひとすじ”というわけではなく、高校ではチアリーダーとして活躍するなど、活発な一面も持っていた。
大学で作曲や演奏を学び始め、卒業後にチャンスを求めて故郷のミズーリを離れ、セントルイスのバーなどで歌うようになる。
一時期は小学校の音楽教師になったり、企業CMジングルなどの作曲をもしていたが…25歳を迎えた1986年に、自らの音楽への夢を追うためにカリフォルニアに移住する。
翌1987年から1989年、マイケル・ジャクソンのコンサートツアーでのコーラスを務め、同ツアーで日本にも訪れている。
その後も、スティーヴィー・ワンダーやドン・ヘンリーなど多くの著名なアーティストのバッキング・ヴォーカルとしてレコーディングへ参加をしたり、エリック・クラプトンに曲を提供したりもするが…彼女自身にスポットが当たることはなかった。
そんな中、裏方としてのキャリアを積み重ねてきた彼女のパフォーマー/ライターとしての才能に目を付けたA&Mレコードがついに契約の話を持ちかけてくる。
1990年に同社と契約し、1992年にはポリスやフィル・コリンズのプロデュースで有名なヒュー・パジャム制作指揮によって待望のデビューアルバムを完成させるが…リリースが頓挫するという苦いアクシデントも経験する。
30歳を迎えた彼女にとって転機となったのが、年齢的にも精神的にも最も行き詰まりを感じていた1992〜93年だったという。
この頃、彼女は毎週火曜日の夜になると、数人のミュージシャン達が集まって(自然発生的に)ジャムセッションを行っていた“ある場所”に顔を出すようになる。
ロサンゼルス北東の高級住宅街パサデナにあったその場所とは、マイケル・ジャクソンやマドンナを手掛けたプロデューサーのビル・ボットレルの自宅だった。
彼女は当時のことをこんな風に振り返っている。

「あの時期、私は火曜日の夜を何人かのアーティスト達とビルの家のタペストリーのかかった明るいリビング兼スタジオで過ごしたわ。
集まったクルーは音楽的な実験をやりながら、何かを創造することだけを頭に描いていた人達だったの。
夜が終わる頃、もしくは朝を迎える頃になると、特別なものが作り出され、それがレコーディングされていたわ。
もちろん、何も作り出されない夜だってあったけど…。
ビールを飲みながら、それぞれが一番身近にある楽器を手に取りながら。
私のデビューアルバムは、あの“火曜日の夜のセッション”から生まれたの。」


長い下積み時代を経験しながら、行き詰まっていた彼女をグラミー歌手にまで一気にステップアップさせたこのアルバムは、実は元々レコーディングのためではなく「ただ演奏を楽しんで、良い曲ができたら録音しておこう!」と、そんな気楽な雰囲気で録られていたのだという。
きっかけは、本作でドラムス、ギター、オルガンを担当している彼女の当時のボーイ・フレンド、ケヴィン・ギルバートの何気ない誘いだった。
そんな自然な流れから彼女が仲間入りをしたことよって、この“火曜日の夜の音楽実験”は全世界に知れ渡ることになった。

すべてのことが思いどおりになるわけではないわ
何とかしようと頑張ってみても…いつも苦しむだけみたい
お願いだから心から私のことをあきらめないって言って
そしたらきっと信じるから
きっと信じるから
きっと信じるから
きっと信じるから



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『Tuesday Night Music Club』/シェリル・クロウ(1993/ USMジャパン)

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