ポップミュージックの歴史において新たなスタンダードが生まれる時、そこには革新的なアイデアを生み出すミュージシャンの存在がある。
ロックンロールを世界に広めた「キング・オブ・ロックンロール」エルヴィス・プレスリー。R&Bやディスコ、ロックやヒップホップを区別なく取り入れ、次々とヒット曲を生み出した「キング・オブ・ポップ」マイケル・ジャクソン。
彼らは世界中の人々に音楽を届けるだけでなく、新たなスタンダードを作り出す「スター」と呼ばれる存在になっていった。
現代においてスターとしての役割を引き受けているラッパーの一人がドレイクだ。彼は多くの人々に受け入れられながら、新しいスタンダードを作り続けてきた。
ドレイクはブルースの街メンフィスで生まれた。父親は黒人で母親はユダヤ人という家庭で育った彼は、5歳の時に両親が離婚し、カナダのトロントへと移住する。他の子供たちとは異なるバックグラウンドを持ったドレイクは、疎外感を覚えながら幼少期を過ごしていた。
そんなドレイクの楽しみは、夏休みに父親の住むメンフィスへ行くことだった。彼の父親はドラマーとして活動していた。父親の仕事現場を見学したり、メンフィスの街に繰り出しながら、ブルースやカントリー、ソウルなど様々な音楽に触れていたという。
しかし、ドレイクのキャリアの始まりは音楽ではなかった。芸能事務所にスカウトされたことをきっかけに、俳優の道へ進むことを決意したのである。
2001年より、カナダの10代向けの学園ドラマシリーズ「Degrassi:The Next Generation」に出演。若手俳優として注目を集める。しかし、彼は自らのルーツである音楽の道を諦めたわけではなかった。
20歳になったドレイクは、俳優活動の傍ら音源制作を始め、インターネット上に作品をアップしていく。転機が訪れたのは2009年。3作目の『ソー・ファー・ゴーン』が注目を集めたのだ。

このアルバムはロングヒットを続け、翌年にはメジャーレーベルから『サンク・ミー・レイター』を発表。いきなり全米チャートの1位を獲得し、若きスターとして世に知られていった。
ドレイクはその後も「性別や国籍を超えた音楽を作りたい」という想いから、ジャンルの垣根を超えた楽曲を生み出し続ける。彼の野心的な試みはリスナーに歓迎をもって受け入れられ、デビュー以来リリースしたアルバムはすべて全米チャート1位を獲得した。
圧倒的なセールスと作品の高い完成度を誇ったドレイクだが、グラミー賞の主要部門を獲得したことはなかった。「ラッパー」というイメージが強いドレイクは、歌をメインにしたアルバムをリリースしても、ラップ部門でしかノミネートされていない。ある意味、ジャンルの隔たりをなくそうとしている彼にとって、この扱いは不満であった。
グラミー賞を前にしたインタビューでその思いを吐露しながら、目標としているアーティストとして例に出したのがマイケル・ジャクソンだ。
「マイケル・ジャクソンみたいになりたい。自分が尊敬するアーティストたちみたいに僕はなりたいんだ」
マイケルのようにジャンルを超えたポップソングを作りたい。そのドレイクの想いは、2018年『スコーピオン』というアルバムで結実した。
2枚組24曲というボリュームのアルバムの中には、「Don’t Matter To Me」という曲が収録されている。

『スコーピオン』は全米チャート1位を記録し、「Don’t Matter To Me」もリスナーに愛される楽曲になっている。
かつてマイケル・ジャクソンはスターとしての役割を背負い、常にダンスや音楽で新たな道を切り開いていった。今や彼が生み出したものは、世界のスタンダードである。
ドレイクもマイケルのように時代のスターでありながら、次の時代のスタンダードとなるポップソングを作り続けているのである。
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