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ブラジルのビーチを150万人で埋め尽くした「世界最高のロックバンド」の稼ぎ方

2024.02.18

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ストーンズ流ロックンロール・サーカスはこれだけ稼ぎ出す


2006年2月18日。ブラジル・リオデジャネイロのコパカバーナビーチには、一晩で150万人(*1)もの人々が集まった。無料コンサートとはいえ、リゾート地の海岸がこれほどの大観衆で埋め尽くされる光景は滅多にお目にかかれない。「世界最高のロックバンド」と謳われるあのローリング・ストーンズのステージを観るためだ。

このコンサートは当時の新作『ア・ビガー・バン』のワールドツアーの一環だった。32ヵ国118都市を巡るストーンズ流ロックンロール・サーカスは、2005年8月から丸2年も続けられた。結果的に144回公演で468万人(コパカバーナの人数は含めず!)を動員して、5億5825万ドルもの収益を生み出し、ツアー興行記録(*2)を塗り替えてしまった。

驚くのはまだ早い。
ビルボード誌が発表した「90年代以降のツアー興行収益のトータルランキング」では、538公演/約1967万人動員/約15億7000万ドルを稼いだストーンズが堂々のトップに立った。また、フォーブス誌が毎年発表する収入や話題をランキング化した「セレブリティ100」には、大規模なツアーをする度にストーンズがランクインする。

例えば40周年ツアー時は2003年に8000万ドル、2004年に5600万ドル。上記の『ア・ビガー・バン・ツアー』時は2006年に9900万ドル、2007年に至っては1億500万ドルもの収入があった(ちなみに50周年ツアーを行った2013年の収入は3900万ドル)。同誌が単なる収入上位を発表していただけの90年代でも彼らはランキングの常連で、その際には50~70億円という数字が並び、やはりすべてにツアーが絡んでいた。

今の時代、長期間に渡ってスタジアムやアリーナのツアーを実施するのは何もストーンズに限ったことではなく、スター級のロックバンドやポップスターが人気を維持するためには常に求められる華やかなイベントのようなもの。だがそんな中でも、80年代以降のストーンズのツアーは、その継続するスケール感や稼ぎ出す金額に特筆すべきものがある(このコラムの最後にリスト化参照)。

1970年代から1990年代後半までは、アーティストがレコードやCDのセールスで十分稼げた期間だったと、ミック・ジャガーは指摘する。確かにストーンズ自身も60年代は不利な契約に縛られてレコード会社ばかりが儲かる仕組みだったし、ネットカルチャーの普及やiTunesなど新しい流通が浸透した時代以降は印税収入が減少している現実がある。

70歳を超えてもステージを走り回るミックのパフォーマンスには感心させられるが、その裏側にはCDなどの印税、グッズ販売、楽曲や映像使用などのロイヤリティ、スポンサーとの契約金以上に、ツアー自体の収益がバンドビジネス運営の主軸となっている事情もあるに違いない。そして大規模なツアーともなれば、何百人というスタッフの人件費や壮大なセットや演出、宣伝や会場費、アゴ(飲食)・アシ(交通)・マクラ(宿泊)といった予算も膨らむ。

「生き残るための唯一の手段がツアーだ。レコードの印税でもろもろのコストをカバーするなんてできやしない。メガツアーは回し続けなきゃいけない機械のようなもんさ……俺たちがやってるのは小さなロンドンのクラブに出てた1963年とたいして変わってないけどな」(キース・リチャーズ)

「自分たちが客席から“蟻”のようにしか見えないことを意識するようになってね。観客を盛り上げるために、巨大なスクリーンにミックの姿を映したりしなければならなくなった。ショーの規模がこれだけ大きくなると、花火やら照明やら舞台やら、ちょっした“仕掛け”が必要になってくる」(チャーリー・ワッツ)


2014年2月には6度目の来日公演を行ったストーンズ。東京ドームのたった3回のステージでは、約15万人を動員して約28億6000万円を稼いだという。S席チケット1万8千円でも唸る金額なのに、ゴールデンサークル席なる8万円の超高額席まで完売したのだから当然だろう(先の話があるから何だか小さく思えてしまう)。

その日を楽しみに何とか“絶好のアリーナS席”にありついたことを思い出す。公演が始まってしばらくすると、ステージにいる“手のひらサイズ”の彼らや埋め尽くされた観衆を眺めながら、こう思った。
「ストーンズって、デビューした60年代やキースがロックスターのイメージを創造した70年代はまさに“反体制”の象徴だったはず。リアルタイムでないとはいえ、そんなストーンズが音楽体験の原点だったし、そこに魅せられた。でも今の彼らは巨大なビジネスとシステムのもとにある。まるで“体制側”じゃないか」

ストーンズは黄金期の1971年に、税率の高さや弁護士との金銭トラブルが原因で破産寸前に追い込まれて母国イギリスを脱出しているが、それ以降は税率の低いオランダで印税や資産の管理を行っている。その甲斐あってか、ミック・ジャガーには3億3000万ドル、キース・リチャーズには2億8000万ドル、チャーリー・ワッツには1億6000万ドルもの資産があるという(2014年調査)。

でも、こう思うこともある。
ロックンロールが誕生してすでに60年の歴史を迎える。憧れだったアーティストもそのうち年を重ねて還暦になる。ストーンズも前人未到の“70代のロックスター”になった。度重なる試練や解散危機を乗り越えながら、デビューから50年以上経ってもステージで演り続けていることの奇蹟。「世界最高のロックバンド」としての宿命。

ここ半世紀における音楽業界の劇的な構造変化と同じように、ストーンズも時代の空気を吸い込みながらその名の通り懸命に“転がり”続けて来ただけなのだ──ローリング・ストーンズのショウには人がたくさん集まる。そして、そのステージがとんでもなく素晴らしく楽しめることに変わりはない。


(注)
*1 ロッド・スチュワートが1994年に同じ場所で無料コンサートを開き、350万人を集めたというギネス記録もある。その日は大晦日だった。
*2 U2が2009〜11年に行った「360°ツアー」が7億ドル以上を稼いで記録を更新した。U2も興行収益や収入ランキングの常連。その後、エド・シーランが2017〜19年に行った「÷ Tour」が記録を塗り替えた。しかし、2024年現在ツアー中のテイラー・スウィフトが10億ドル以上で記録を更新した。



【ローリング・ストーンズのツアー実績】
*1969年以降は、PAが確立してロックコンサート自体が重要な意味を持つようになる時代が始まる。当初はアルバムのプロモーションのためだったが、ネット時代になるとその関係が逆転していく。なお、金額は当時の数値。現在の貨幣価値に置き換えて想像してみてください。

<反体制の時代>
●1969.11.7-11.30:USツアー/28公演/34万人動員/収益191万ドル
*サマー・オブ・ラブなムードに終止符を打ったオルタモントの悲劇があった。
●1970.8.30-10.9:ヨーロッパツアー/22公演/20万人動員
●1971.5.4-5.14:UKツアー/17公演
*高額な税制を逃れて母国イギリスから去る際のフェアウェルツアー。
●1972.6.3-7.26:USツアー/48公演/75万人動員/収益400万ドル
*最高傑作『メインストリートのならず者』のプロモーションのための伝説のツアー。間違いなくストーンズの黄金期だった。
●1973.1.18-2.27:パシフィックツアー/14公演
*初の日本公演が予定されてチケットも販売。しかしメンバーのドラッグ問題で入国許可がおりず幻に。
●1973.9.1-10.19:ヨーロッパツアー/42公演/31万人動員
●1975.6.1-8.8:USツアー/46公演/100万人動員/収益1000万ドル
●1976.4.28-6.23:ヨーロッパツアー/41公演/55万人動員
*ロン・ウッド正式加入後の初のツアー。
●1978.6.10-6.26:USツアー/25公演/77万人動員
*キースの長年のドラッグ問題による解散危機を乗り越えたツアー。

<メガツアー時代>
●1981.9.25-12.19:USツアー/50公演/265万人動員/収益5200万ドル
*ストーンズの大規模なツアーの幕開け。映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』にもなり、日本でも上映された。なお、2013年に公開された結成50周年記念映画『クロスファイアー・ハリケーン』は、このツアーでストーンズが真の成功を掴んだとしている。
●1982.5.26-7.25:ヨーロッパツアー/36公演/170万人動員
*第6のメンバー、イアン・スチュワートが参加した最後のツアー。85年死去。
●1989.8.31-12.20:スティール・ホイールズ・ツアー(北米)/45公演/325万人動員/収益9800万ドル
*MTV時代のミックとキースの不仲と最大の解散危機を乗り越えた7年ぶりの大復活ツアー。
●1990.2.14.-2.27:東京ツアー/10公演/50万人動員/収益51.5億円
*遂に実現した初来日公演。東京ドーム10日間。
●1990.5.18-8.25:アーバン・ジャングル・ツアー(ヨーロッバ)/243万人動員
*この後、オリジナルメンバーのビル・ワイマンが脱退。
●1994.8.1-1995.8.30:ブードゥー・ラウンジ・ツアー(ワールド)/124公演/633万人動員/収益3億2000万ドル
●1997.9.23-1998:ブリッジズ・トゥ・バビロン・ツアー(ワールド)/108公演/480万人動員/収益2億7400万ドル
●1999.1-6.20:ノー・セキュリティ・ツアー(北米、ヨーロッパ)/43公演/収益8850万ドル
*小規模の会場を巡ったツアー。
●2002.9.3-2003.11.9:リックス・ツアー(ワールド)/115公演/347万人動員/収益3億1100万ドル
*40周年を記念したツアー。
●2005.8.21-2007.8.26:ア・ビガー・バン・ツアー(ワールド)/144公演/468万人動員/収益5億5825万ドル
*この期間、スーバーボウルのハーフタイムショウ出演、フェス出演、映画『シャイン・ア・ライト』収録などの話題も充実。
●2012.10.25-2013.6.13:50&カウンティング・ツアー(北米、ヨーロッパ)/30公演/収益1億4580万ドル
*結成50周年を記念したツアー。
●2014.2.21-11.22:14onFIREツアー(ヨーロッパ、アジア、オセアニア)/29公演/収益1億6500万ドル
*最新の日本公演もこの一環。
●2015.5.20-7.15:ジップ・コード・ツアー(北米)/17公演/1億970万ドル
●2016.2.3-3.25:América Latina Olé Tour(南米)/14公演/8390万ドル
●2017.9.9-2021.11.23:No Filter Tour(北米、ヨーロッパ)/58公演/287万人動員/5億4650万ドル
●2022.6.1-2022.8.3:Sixty Tour(ヨーロッパ)/14公演/71万人動員/1億2130万ドル
●2024.4.28-7.17:Hackney Diamonds Tour(北米)/17公演


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*参考/『ザ・ローリング・ストーンズ 50』(ヤマハミュージックメディア)、『ローリング・ウィズ・ザ・ストーンズ』(ビル・ワイマン著/小学館プロダクション)
*このコラムは2014年6月に公開されたものを更新しました。

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