アイドル扱いされた10代に別れを告げたチャーリー・セクストン(Charlie Sexton)
1985年。若くてハンサムで背が高く、歌もギターも驚異的にうまい。そんな才能に溢れた17歳がシングル「Beat’s So Lonely」とアルバム『Pictures for Pleasure』でデビューした──その少年の名はチャーリー・セクストン。
アメリカはもとより世界中がこの若者に夢中になった。シングルは17位、アルバムは15位を記録するヒット。MTVが開局した間もない頃で、マイケルやマドンナなどの洋楽が今よりも影響力を持っていた時代。日本でも「チャリ坊」なんて呼ばれ、同世代のファンは数多かった。
1986年夏には待望の来日。新人としては異例ともいえる東京だけで7回公演。そしてメディアの取材ラッシュ。チャーリーが「どこへ行った? 何を食べた? 何を買った?」など、まるでアイドル並みの報道だった。ジェームズ・ディーンとマット・ディロンを足して割ったようなルックス。実際、彼には十分すぎるほどの魅力があったのだ。
当時日本で一番人気が高かった音楽雑誌の表紙の常連だった。
1968年、テキサス州サン・アントニオに生まれてオースティンで育ったチャーリー・セクストン。13歳で早くもプロミュージシャンとして活動をスタートする。ブルース、カントリー、ロカビリーなど、南部出身らしいルーツミュージックを心から愛する少年だった。
ドン・ヘンリー、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(以下SRV)、キース・リチャーズ、ロン・ウッドとも共演を果たし、最も期待されるギタリストとまで言われる。ジミ・ヘンドリックスの再来とまで評価した音楽関係者もいた。
しかし、LAのレコード会社と契約後に制作されたのは、ルーツロックではなく、ビリー・アイドル風なエレクトロニクスを多用したハードなロックンロールだった。そのレコードを聴いた地元テキサスファンの失望は大きかったという。裏切られた気持ちになったのだろう。
おかしな話だけど、MCAからはテキサス・ブルース的なアルバムを作れと言われたんだ。でも俺はブルースを歌うのが本意でなかった。あの歳でそんなアルバムを作るのは不可能だったよ。作曲力も十分でなかったし、アーティストとしてまだまだ発展途上だった
とにかくチャーリーはわずか17歳で成功を手にした。今ではその年齢でポップスターになることは珍しくない。だが内面の成熟には程遠い。ショービジネスの世界であろうがなかろうがそれは同じだった。天才少年が輝くのはステージやビデオの中であり、日常生活では普通の17歳に過ぎなかった。
そんなこともあってか、セカンド作のリリースは3年後の1989年まで待たねばならなかったが、届けられたのは17歳のままの音楽。ヒットもせず、話題にもならず、やがてチャーリー・セクストンの名は忘れ去られていく。
故郷テキサスに戻った彼は、1992年〜1994年の間、SRVのバンドにいたメンバーと共にアーク・エンジェルズの一員として活動。アルバム1枚をリリース。ブルース・ミュージシャンとして自らのルーツに回帰する。
さらに1995年には、チャーリー・セクストン・セクステットを結成。評論家から絶賛されたアルバム『Under the Wishing Tree』は、ブルースに加え、ケルト音楽やフォークなど、音楽的成長を遂げた姿が刻まれていた。
本物の音楽を追求しようとすればするほど、ミュージシャンにはある一つの心配がつきまとう。生活との両立問題だった。気がつけば、明日の金も底をつく寸前だったいう。そんなある日、運命の電話が鳴る。ボブ・ディランに起用されたのだ。
ボブから電話があった時の俺は、もうすぐ息子が生まれるというのに人生最大の金欠状態だったんだ。自分に言い聞かせたよ。「おい、そろそろ大人になれよ。ちゃんと食べていけるようにしなければならないんだ」ってね
ディランとの仕事(ツアーバンドやレコーディング)は、人生を変えた経験だったとも振り返る。こうした経緯が内面の成熟をもたらしたのかもしれない。
2005年、37歳になったチャーリー・セクストンは、10年ぶり(ソロ名義としては16年ぶり)となる自身の新作『Cruel and Gentle Things』をリリースした。それは余りにも静かな復活だった。そしてたまらなく感動的な作品だった。列車が走り汽笛が鳴る地元テキサスをテーマに、自分の人生を歌った。
アイドルだった17歳の少年は、20年経ってようやく自分の居場所を見つけたのだ。優れたソングライター/ギタリスト/シンガーとして、チャーリーの旅はこれからも続いていく。
2005年に行われたインタビューと演奏(17:45あたりから)
1985年のデビュー曲「Beat’s So Lonely」のMV
『Pictures for Pleasure』(1985)
伝説のデビュー作。
『Cruel and Gentle Things』(2005)
感動的な復活作。
*参考・引用/HIGH-HOPES
*このコラムは2014年10月に公開されたものを更新しました。
(こちちのコラムも併せてお読みください)
スライドギターの旅愁──ライ・クーダーという風景
ボニー・レイットの決意──ブルースマンの危機が暗闇に迷った彼女に光を与えた
【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
https://www.wildflowers.jp/contact/