6月に大阪と東京のビルボード・ライブで来日公演が予定されているコリーヌ・ベイリー・レイ。
昨年4月の来日公演では比較的大規模なライブハウスやホールでのコンサートであったのに比べて、今回はぐっと親密度が増すライブになると思われる。
そんな来日直前のコリーヌが忙しい中、メール・インタビューに答えてくれたので、前編と後編の2回に渡って紹介したい。
彼女の音楽に対する真摯な姿勢と同様、一つ一つ言葉を選びながら率直に、そして丁寧に答えてくれた彼女を、このインタビューでより身近に感じてもらえたらと思う。
柔らかな歌声と、オーガニックでぬくもりのある音楽が魅力のコリーヌ・ベイリー・レイは、1979年英国生まれのシンガー・ソングライターだ。10代の頃はバンドでギターを弾き、大学時代にはジャズやソウル・ミュージックに目覚め、サックス奏者のジェイソン・レイと結婚する。
2006年に1stアルバム『コリーヌ・ベイリー・レイ』でデビューを果たすと、いきなり全世界で400万枚を売り上げる大ヒットとなった。
しかし次作をレコーディング中の2008年、夫のジェイソンが遺体で発見され、そこから約1年間は何もできない日々を送る。
最愛の人を失うという失意から立ち直り、2ndアルバム『あの日の海』がリリースされたのは2010年。その後は、ライブ・ツアーや他のアーティストとの共演など精力的に活動し、2016年に待望の新作『ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ』がリリースされた。
―2ndアルバムから『ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ』が発表されるまで、6年もの月日がかかりました。が、再びアルバム制作に向かわせたきっかけは何だったのでしょうか?
次のアルバムまでに6年というのは、とても長いように思えますね。
実際このアルバムは、作り上げるのにとても長い時間がかかりました。
ソングライティングの段階では、むしろスピーディーに進んでいたのです。自分のアイデアが直感的に湧き出てくることに、身を委ねてましたから。
でも、制作には随分と時間がかかってしまいました。
今回はどうしても一緒にやりたいミュージシャンたち(エスペランサ・スポルディングやキングなど)がいて、そのためにロサンゼルスに行っていたのが理由のひとつです。
それに私は、プロデューサーになるための勉強もしていました。どのようにビートを作り、どのようにテクスチャーを組み合わせられるのかを、試行錯誤しながら学んでいました。
ですから、6年間でたくさんライブもしましたが、それと同時にアルバム制作のための実験も色々と試していたのです。
きっと私はこれからもずっとレコードを作っていくと思います。様々な歌を異なる文脈で作っていくということが、とても楽しいのです。そういったことが、私をアルバム制作へと向かわせたのでしょう。実験と創作への欲求とも言えますね。
私はライブも大好きだけど、永遠に残るものを作るレコーディングという行為も大好きなのです。
―1stアルバムはシンプルでポップなイメージ、続く2ndアルバムではヴィンテージでソフト・ロックだったのに対し、『ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ』では、サイケデリックな要素が加わって、今までよりもカラフルなイメージになったと感じましたが、どのアルバムにもナチュラルでオーガニックなスタイルが貫かれていると感じます。
自身の音楽制作において、変わらずにずっと大切にし続けていることはありますか?
私が最も大切にしているのは、音楽を通して人々とコミュニケーションをとったり、つながったりすることです。
ソングライティングにおいては、その時々に自分が感じたり体験したことが反映されていればいいなと思っていますし、その瞬間に私が立っている場所を記録するものであればいいなと考えています。つまり、そうすることで、それが不変のものになるのです。
とはいえ、そういったことにはあまり縛られず、自由にレコードを作っていますけど。
3枚のアルバムの違いに気づいてくれたことはとても嬉しいです。
私にとって、自分のスタイルを発展させて変わっていくことは、とても大事なことです。カラフルで、ノイジーで、豊富なテクスチャーとたくさんのディテールを持つ、そんなレコードを作りたかったのです。ただただ、ありとあらゆる色で塗り尽くしたら、本当にワクワクするだろうなと思って。
自分のレコードがある特定の音色を響かせることに、こだわってはいません。新しいアルバムを作るときはいつも、それは大した冒険なのです。それらの歌が最もいい形となり、あなたの言うように変わらないスタイルとなって表れているのでしょう。
―過去に突然パートナーを失うという悲しい体験をされました。そんな時に何か音楽は聴いていましたか? 悲しみに寄り添ってくれたり、心の支えになってくれた音楽はあったのでしょうか。
悲しみが最も深い時期には、あまり音楽を聴きませんでした。音楽に集中するのがとても難しかったのです。
私は静寂を楽しんでいました。だけど、都会に住んでいる限り、本当の静寂は決して訪れません。静けさに耳を傾けていると思っていても、実際には鳥のさえずりや風が梢を揺らす音、子供達が公園ではしゃいでいる声、車が走り去って行く音、人々が会話している声などを聞いているのです。そうした日常の様々な音が、私を元気づけてくれてくれました。
音楽をただの音として捉える、それは自分自身を解き放ってくれる全く新しい観点でした。何を作るのか、何をプロデュースするのかを考える上で、すごくラディカルになれるからです。
だから私は、今作っている音楽を本当に楽しんでいます。音楽を音の集合として、これまで以上に抽象的に捉えています。全ての音が何らかの影響を及ぼし、違った感情をもたらしてくれるかもしれないのです。
深い悲しみから10年。
強さを身につけ、キラキラと輝きを増したコリーヌ・ベイリー・レイが、新しい音への探求と冒険をとても楽しんでいる最近の様子を、このインタビューからもうかがえる。
よりカラフルで華やかになったコリーヌが、ビルボード・ライブというステージでどんなパフォーマンスを見せてくれるのかとても楽しみだ。
後編では、インスタグラムなどのSNSでも話題の「#私を構成する9枚のアルバム」を彼女に訊ねてみた。
私の人生を変えたアルバム~コリーヌ・ベイリー・レイ・インタビュー(後編)
コリーヌ・ベイリー・レイ来日公演
【大阪】
6月6日(水)@ Billboard Live OSAKA
詳細はコチラ
【東京】
6月8日(金)@ Billboard Live TOKYO
6月9日(土)@ Billboard Live TOKYO
6月10日(日)@ Billboard Live TOKYO
詳細はコチラ
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~喪失感と深い悲しみの中で、再び歌い始めたコリーヌ・ベイリー・レイ『あの日の海』