幼い頃に両親の離婚を経験したトム・ウェイツは、12歳から母親と共にサンディエゴで暮していた。15歳になった頃からピザハウスで深夜の雑役をこなす。その仕事内容は、閉店後から明け方にかけての皿洗いやフロアの掃除だった。
夜に生活する人たちから様々なことを学びながら二十歳を過ぎた彼は、あるナイトクラブのドアマンとして働くようなった。彼はそこで見聞きする“真夜中の風景”や“不起用な人間の姿”を詩に綴り、閉店後の誰もいなくなった店内でピアノやギターを弾き、曲を書くようになった。
トム・ウェイツが24歳の時に発表した1stアルバム『Closing Time』(1973年)に収録された「グレープフルーツ・ムーン」は、きっとそんな日々の中で紡がれたのだろう。
グレープフルーツみたいな月と光る星がひとつ
僕を照らしている
あの歌がもう一度聴きたくて
焦がれている僕のことがわかるかい?
あのメロディを聴くたびに
心の中でなにかが壊れてしまうから
グレープフルーツみたいな月と光る星がひとつ
潮の流れを戻すことなんて出来ないのさ
トム・ウェイツにまつわる書籍『酔いどれ天使の唄』(大栄出版)、『素面の、酔いどれ天使』(東邦出版)の著者パトリック・ハンフリーズは、この曲が書かれた頃のトムの作曲スタイルについてこんなことを語っている。
『Closing Time』のジャケットは、彼が描いた“音”のイメージに近い。時計の針は3時22分を指している。午後ではない、午前だ。くたびれたシンガーが、バーの傷だらけのピアノの前に座っている。ライ麦ウイスキーをグラス一杯、ビールを一本、灰皿は吸殻でいっぱいだ。そしてインスピレーションが湧いてくるのを待ちながら、煙草をギリギリまで吸う。
この(ジャケット)写真は、彼がジェームス・テイラーやキャロル・キング、ニール・ヤングやジョニ・ミッチェルと同じ時代に、新進気鋭のシンガーソングライターだった何よりの証拠だ。
遥か太古から…人類は月を眺めながら想いに耽っていたのだろう。日本最古の物語といわれている『竹取物語』でも、月は人々の信仰の対象のように描かれている。
トム・ウェイツが下積み時代にサンディエゴで見上げていた月。
私たちが今夜見上げる月。
貧しい国の空に浮かぶ月。
豊かな街を見下ろす月。
職場の窓から見上げる月。
病室の窓から見える月。
独り暮らしのアパートの窓から覗く月。
坂の途中で笑う月。
戦場の月。
恋人達を照らす月。
老人の瞳に映る月。
どんな時代でも、どんな場所にいても、月は黙って我々を見ている。せめて美しい満月の夜くらいは…心清らかでありたいものだ。
クロージング・タイム
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