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ヒッピーの聖地へと向かう途中で生まれたレッド・ツェッペリンの「カシミール」

2024.08.19

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「私のお気に入りの1曲だ。詩的に、とてもポジティヴな歌だ」


ロバート・プラントは、レッド・ツェッペリンが1975年に発表した『フィジカル・グラフィティ』に収録されている「カシミール」について、そう語っている。そしてジミー・ペイジは「ツェッペリンで最高のリフは?」と聞かれて、この曲をあげている。

カシミール。
その地はインドの北部とパキスタン北東部の国境地帯の山岳地にある。カシミアの産地として有名な場所だ。

だが、ロバート・プラントがこの曲の歌詞の着想を得たのは、サハラ砂漠を車で横断している時だった。

1973年、ロバート・プラントとジミー・ペイジは、モロッコで開かれるナショナル・フォルクローレ・フェスティバルに向かっていた。「私はジミーとモロッコの大西洋岸を、アガディールからシディイフニに向かって走っていた。

「私たちはまさに、ヒッピーたちと同じルートを辿っていたのさ」


モロッコ南西部に位置するアガディールは、1505年にポルトガル人の手で開発され、貿易の拠点となった港町である。だが、何故ヒッピーなのか?

1960年代から70年代にかけて、欧米の若者たちは、世界を旅して回ったものだった。17世紀にブームとなったグランドツアーは、英国の裕福な家庭の子息が卒業旅行にと、フランスやイタリアを訪ねるものだったが、ラブ&ピースの時代に流行った世界旅行は、ヒッチハイクでアジアやアフリカに向かうのが常だった。

ロバート・プラントとジミー・ペイジがサハラ砂漠を走っていた1973年、ひとりの青年が一冊の旅行記を出版している。

彼の名は、トニー・ウィーラー。彼は妻モーリーンとロンドンからミニ・バスで新婚旅行に出かけたのである。旅行記を出版する1年前の話だ。「安上りアジアの旅」と題されたその本は当初、自費出版されたものだが、人気を呼び、世界各国で出版されることになる。現在も続くトラベル・ガイド「ロンリー・プラネット」誕生の瞬間である。

 トニーとモーリーが新婚旅行に出かけた1972年、カントリー・シンガーのダニエル・ムーアが「シャンバラ」という楽曲を書き上げている。シャンバラ、とはヒマラヤ山脈のどこかにある伝説の楽園である。若者たちは楽園を求めていた。そしてこの曲は翌1973年、スリー・ドッグ・ナイトが歌い大ヒットさせている。

 モロッコの町、シディイフニもまたヒッピーの聖地であった。ロバート・プラントはその地に向かう車の中で、ヒッピー街道を行く若者たちを想っていたのだ。


Led Zeppelin『Physical Graffiti』
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